• 賢い召使い

    グリム童話
    あるところに、ちょっぴりけちんぼうな旦那さんと、頭の回転が速い召使いがいました。二人は旅の途中でした。

    目の前に大きな川が流れています。「さて、どうやって渡ろうか」旦那さんが困っていると、召使いがにっこりして言いました。「旦那様が私をおんぶしてくだされば、あっという間ですよ。」
    「何を言っているんだ!お前は重いだろう!」旦那さんはぷんぷん。
    「では、こうしましょう。私が旦那様をお運びします。その代わり、旦那様は大事なお金袋をしっかりお持ちください。お金は軽いですからね!」
    旦那さんは「うむ、それならよかろう」と答え、召使いの背中に乗りました。召使いはよいしょ、よいしょと汗をかきながら川を渡りました。

    やがて日が暮れて、宿屋に着きました。
    召使いは大きな声で言いました。「私はお腹がペコペコです!美味しそうな鶏の丸焼きを三羽と、パンもたくさんください!」
    料理が運ばれてくると、召使いは旦那さんには見向きもせず、鶏の丸焼きを二羽、あっという間にぺろりとたいらげてしまいました。
    「おい、わしの分はないのか?」旦那さんが聞くと、召使いは口をもぐもぐさせながら言いました。「旦那様は、さっき私を運んでくださったので、きっとお疲れでお腹も空いていないかと思いまして。それに、もし旦那様がお腹が空いていたら、もっと早く『食べたい』とおっしゃるはずですから。」

    旦那様のお腹はぐうぐう鳴っています。「こら!わしは腹ぺこだぞ!どうしてくれるんだ!」
    召使いはにっこり。「ご心配なく、旦那様。ちゃんと旦那様の分もございますよ。ほら、ここに最後の一羽が。」
    そう言って、残しておいた一羽の鶏の丸焼きを旦那さんの前に出しました。「さあ、どうぞ!ゆっくり召し上がってください。」

    旦那さんは、お腹は空いていたけれど、なんだか召使いにしてやられたような、でもその賢さにはちょっと感心するような、複雑な気持ちで鶏肉を食べ始めました。
    召使いは、そんな旦那さんを横目で見ながら、にんまりと笑っていましたとさ。

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