• 捨てられた麻ひも

    グリム童話
    むかしむかし、というにはちょっと近頃のことかもしれません。小さな村のはずれに、ひとりぼっちの女の子が住んでいました。両親を早くに亡くし、とても貧乏でしたが、とっても働き者で、糸を紡いだり、布を織ったり、服を縫ったりするのが大得意でした。

    女の子には、お母さんから譲り受けた、ちょっと変わった三つの道具がありました。それは、紡錘(つむ)と、杼(ひ)と、針(はり)です。

    ある日、女の子が糸を紡ぎながら歌いました。
    「紡錘さん、紡錘さん、くるくる回って、金の糸を紡いでおくれ。未来のだんなさまのところまで、届けておくれ。」
    するとどうでしょう!紡錘はひとりでにシュルシュルと回りだし、キラキラと輝く金の糸をどんどん紡ぎ始めました。そして、その糸の端っこを持って、窓からヒューンと飛んで行ってしまいました。

    金の糸がなくなった頃、今度は女の子は機織り機に向かって歌いました。
    「杼さん、杼さん、カタコト走って、素敵なじゅうたん織っておくれ。未来のだんなさまが歩く道を、飾っておくれ。」
    すると、杼はカタコトカタコトと軽快な音をたてて動きだし、あっという間に、それはそれは見事な模様のじゅうたんを織り上げました。じゅうたんは、まるで生きているみたいに、戸口から外へとスルスルと伸びていきました。

    最後に、女の子は針と糸を手に取って歌いました。
    「針さん、針さん、チクチク縫って、きれいな服を作っておくれ。未来のだんなさまに会うための、一番素敵な服を。」
    すると、針は女の子の手から離れ、チクチクチクとひとりでに動きだし、残っていた布で、それはそれは美しいドレスや飾り物を作り上げ、部屋じゅうを素敵に飾り付けました。

    さて、その頃、この国の王子様がお嫁さんを探していました。王子様は言いました。「国で一番貧乏で、そして国で一番豊かな娘をお嫁さんにしたいのだ。」
    家来たちは首をかしげましたが、王子様の命令なので、国中を探し回りました。

    そんなある日、王子様が森を散歩していると、キラキラ光る一本の金の糸を見つけました。「これは素晴らしい糸だ!」王子様がその糸をたどっていくと、それは小さな家へと続いていました。そして、その家の戸口からは、見たこともないほど美しいじゅうたんが敷かれていたのです。

    王子様がそっと家の中をのぞくと、そこには、質素だけれど美しく飾られた部屋で、自分で作ったのであろう素敵なドレスを着た女の子が、楽しそうに歌いながら仕事をしていました。

    王子様はすぐにわかりました。「この娘こそ、私が探していた人だ。持ち物は少ないけれど、その手と心は誰よりも豊かで、素晴らしいものを作り出すことができる。」

    こうして、女の子は王子様のお嫁さんになりました。紡錘と杼と針のおかげで、女の子は貧乏ではなくなり、王子様と一緒に、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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