• 親不孝な息子

    グリム童話
    太陽がぽかぽか暖かい、ある日のことです。
    一人の男の人が、奥さんと一緒に、おいしそうな丸焼きチキンを食べようとしていました。
    「いい匂いだねえ!」「早く食べよう!」
    二人がフォークとナイフを持った、ちょうどそのとき、男の人は窓の外を見ました。年をとったお父さんが、ゆっくりとこちらへ歩いてくるのが見えたのです。お父さんは、なんだかお腹が空いていそうでした。

    男の人は、チキンをお父さんにあげたくありませんでした。「せっかくのチキンなのに…」
    そこで、大急ぎでチキンを戸棚の中に隠してしまいました。
    「ふう、これでよし。」

    お父さんが家に着くと、男の人はにこにこして迎えましたが、何も食べるものを出しませんでした。
    「元気かい?」と男の人が聞くと、お父さんは「ああ、まあな」とだけ答え、少しがっかりした顔で、しょんぼりと帰っていきました。

    お父さんがいなくなると、男の人はにんまりして言いました。
    「さあ、奥さん、チキンを食べよう!」
    そして戸棚を開けましたが、びっくり仰天!
    そこにあったはずのチキンが、大きな大きなヒキガエルに変わっていたのです。
    ヒキガエルは、男の人をじーっと見ています。

    男の人がヒキガエルに手を伸ばそうとすると、ヒキガエルはぴょーんと飛び上がって、男の人の顔にぺたっとくっついてしまいました。
    「うわあ、取れない!助けてくれ!」
    男の人がどんなに頑張っても、奥さんが引っ張っても、ヒキガエルは顔から離れません。まるで顔の一部みたいにくっついています。
    ヒキガエルは、男の人を鋭い目で睨みつけています。

    それからというもの、男の人は毎日ヒキガエルにご飯をあげなければならなくなりました。
    もしご飯をあげないと、ヒキガエルは男の人の顔をかじろうとするのです。
    「ああ、なんてことだ…」
    男の人は、お父さんに優しくしなかったことを、チキンを隠したことを、とてもとても後悔しました。

    顔にヒキガエルをくっつけたまま、男の人は悲しい気持ちで、あちこちの村をさまよい歩くしかありませんでした。
    みんな、彼を見てびっくりしたり、気の毒に思ったりしました。
    これは、欲張りで親切にしなかった男の人が、ちょっぴり怖い罰を受けたお話です。だから、みんなは周りの人に優しくしましょうね。

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