• ろばの子

    グリム童話
    むかしむかし、というには少しだけ最近のこと。ある国に、子どもがなかなかできない王様とお妃様がいました。お妃様は毎日、「ああ、どんな子でもいいから、赤ちゃんがほしいわ!」と願っていました。王様も、「そうだね、たとえロバの子でも、わしは喜んで育てるよ」なんて言っていました。

    すると、どうでしょう!本当に、お妃様はロバの赤ちゃんを産んだのです!お城のみんなはびっくりしましたが、王様とお妃様は約束通り、そのロバの赤ちゃんを大切に育てました。

    このロバの子、ただのロバではありませんでした。とても賢くて、特にリュートという楽器を弾くのがとっても上手になりました。指の代わりにひづめを使いますが、その音色は誰よりも美しかったのです。

    大きくなったロバの子は、ある日思いました。「ここにいても、僕はロバのままだ。それに、みんな僕のことを見て少し悲しそうな顔をする。よし、旅に出よう!」
    リュートを背負って、トコトコと旅に出ました。

    しばらく行くと、立派なお城の門の前にたどり着きました。門番はロバがリュートを背負っているのを見て、目を丸くしました。「なんだ、このロバは?」
    ロバの子は言いました。「私は音楽家です。王様の前でリュートを弾かせていただけませんか?」

    その国の王様は、面白いことが大好きでした。すぐにロバの子をお城に招き入れました。
    ロバの子がリュートをポロン、ポロンと弾き始めると、それはそれは美しい音色。お城にいた誰もが、うっとりと聞き惚れました。

    王様は大変喜び、「素晴らしい!褒美に、わしと一緒に食事をしようじゃないか」と言いました。
    ロバの子はテーブルにつきましたが、ふと銀の水差しに映った自分のロバの姿を見て、急にしょんぼりしてしまいました。ひづめでは上手にナイフもフォークも使えません。

    王様が「どうしたのだ?元気がないな。何か悲しいことでもあるのかね?」と優しく尋ねると、ロバの子は小さな声で答えました。「はい…私は、見ての通り、ただのロバですから…こんな立派な場所には似合いません。」

    王様はにっこり笑って言いました。「そんなことはない。君は素晴らしい音楽家だ。今夜はゆっくりおやすみ」と、一番良い部屋を用意させました。

    夜になり、ロバの子が部屋に入って一人になると、なんと、着ていたロバの皮をぬぎすてました!すると、中からそれはそれはハンサムな王子様が現れたのです!
    実は、王様はこっそり鍵穴から様子をのぞいていました。王子様が現れたのを見て、王様はこれまたびっくり!そして、王子様がベッドに入って眠りにつくと、そっと部屋に入り、ぬぎすてられたロバの皮を手に取りました。そして、急いでその皮を暖炉の燃えさかる火の中に投げ込んでしまいました。

    皮はあっという間に灰になりました。これで、もう王子様はロバの姿に戻ることはできません。

    次の朝、王子様は自分の本当の姿で王様の前に現れました。王様は大変喜び、自分の美しい娘であるお姫様と王子様を結婚させました。
    王子様とお姫様は、その後、国を立派に治め、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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