三人の軍医
グリム童話
むかしむかし、とはちょっと違う始まり方で、あるところに、とっても腕のいい三人の軍医さんが旅をしていました。彼らは自分の腕前にとっても自信を持っていて、いつも「わたしが一番だ!」「いや、わたしこそ!」と自慢し合っていました。
ある晩、三人は一軒の宿屋に泊まることになりました。夕食の席で、またいつもの自慢話が始まりました。
「よし、今夜、お互いの腕前を見せ合おうじゃないか!」と一人が言いました。
「いいねえ!どうやって?」と他の二人。
「こうしよう。まず、わたしは自分の手をスパッと切り落とす。明日の朝、特別な塗り薬で元通りにくっつけてみせる」と一人目。
「ほう、それはすごい。じゃあ、わたしは自分の心臓を取り出してみせよう。朝にはちゃんと元に戻すさ」と二人目。
「面白い!それならわたしは、自分の目玉をくりぬいてみせる。朝にはパッチリ見えるようにするぞ」と三人目。
宿屋の主人はその話を聞いて、顔が真っ青になりましたが、軍医さんたちは大真面目です。
言った通り、一人目は自分の手を切り落とし、二人目は心臓を取り出し、三人目は目玉をくりぬきました。そして、それらをテーブルの上に並べ、特別な塗り薬を塗って、「明日の朝まで、誰も触るなよ」と言って、メイドに頼みました。
ところが、夜中にこっそり猫がやってきて、テーブルの上の手と心臓と目玉を、おいしいごちそうと間違えてぜーんぶ食べてしまったのです!
朝早く起きたメイドは、テーブルの上が空っぽなのを見てびっくり仰天。「どうしよう!軍医さんたちに怒られちゃう!」
慌てたメイドは、急いで代わりのものを探しに行きました。そして、こっそり盗みを働いた泥棒の手、肉屋にあった豚の心臓、そして、ちょうど捕まえた猫の目玉を持ってきて、そーっとテーブルの上に置いておきました。
朝になり、三人の軍医さんが起きてきました。
一人目は泥棒の手を自分の腕にくっつけました。「よし、元通りだ!」
二人目は豚の心臓を自分の胸に戻しました。「うん、大丈夫!」
三人目は猫の目玉を自分の眼窩にはめ込みました。「おお、よく見える!」
しかし、何だか様子がおかしいのです。
手をくっつけた軍医さんは、なぜか人のポケットに手を入れたり、テーブルの上のお皿をこっそり取ろうとしたりします。「あれ?なんだかこの手、勝手に人のものを掴もうとするぞ!」
心臓を戻した軍医さんは、ブーブーと鼻を鳴らしたり、地面をクンクン嗅ぎまわったりし始めました。「ブー、ブー!なんだか豚みたいに鼻を鳴らしたくなっちゃう!」
目玉をはめた軍医さんは、暗い隅っこをジーッと見つめて、「ニャー!暗いところでもネズミがはっきり見える!捕まえたい!」と叫びました。
三人は顔を見合わせました。「こりゃあ、おかしいぞ!」
宿屋の主人を問い詰めると、メイドが正直に白状しました。
軍医さんたちはカンカンに怒りましたが、もうどうしようもありません。
「こんな宿屋、燃やしてやる!」と脅すと、宿屋の主人は震え上がり、たくさんのお金を渡して許してもらいました。
三人の軍医さんは、大金持ちにはなれましたが、一人は泥棒の手を持ったまま、一人は豚のようにブーブー言いながら、もう一人は猫のようにネズミを追いかけたくなる目で、その後も旅を続けたんだとか、続けなかったんだとか。
おしまい。
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