• 熊の皮を着た男

    グリム童話
    むかし、戦争がおわって、一人の若い兵隊さんがいました。仕事もお金もなくて、どうしようかと途方にくれていました。
    すると、森の中で、緑色の服を着た、ちょっと変わった男の人が現れました。
    「もしもし、兵隊さん。わしと契約せんかね? これから七年間、この熊の毛皮を着て、体を洗わず、髪も爪も切らず、お祈りもせずに過ごすんだ。そのかわり、ポケットのお金はいくら使ってもなくならないようにしてやろう。七年たったら、お前さんは大金持ちで自由の身だ。だが、もし途中で約束を破ったり、七年以内に死んだりしたら、お前さんの魂はわしのものだ。」
    兵隊さんは、もうどうなってもいいやと思い、「いいでしょう、やりましょう!」と答えました。

    男は兵隊さんに熊の毛皮を着せると、「この毛皮を着ている間は、お前さんは『熊の皮男』と呼ばれるだろう」と言って消えました。
    熊の皮男さんのポケットには、本当にじゃらじゃらとお金が入っていて、使っても使ってもなくなりません。
    でも、その姿はひどいものでした。髪も爪も伸び放題、顔も真っ黒で、まるで本物の熊のよう。みんな彼を見ると怖がって逃げてしまいました。

    それでも熊の皮男さんは、お金を困っている人たちのために使いました。貧しい農夫の借金を肩代わりしたり、お腹をすかせた子どもたちにご飯をおごったりしました。
    ある日、熊の皮男さんは、ある宿屋に泊まろうとしました。宿屋の主人は最初、その汚い姿を見て断ろうとしましたが、熊の皮男さんが金貨をどっさり見せると、一番良い部屋を用意しました。

    その宿屋には三人の娘がいました。上の二人の娘は、熊の皮男さんの姿を見て、「キャー、汚い!臭い!」と言って逃げてしまいました。
    でも、一番下の娘さんは、熊の皮男さんの目を見て、その奥に優しい心があるのを感じました。彼女は熊の皮男さんに親切にしました。
    熊の皮男さんは、その娘さんの優しさに心を打たれました。
    「私はあと三年、この姿でいなければなりません。もしあなたが私を待っていてくれるなら、三年後に必ず迎えに来ます。」
    そう言って、自分の指輪を半分に割って、片方を娘さんに渡しました。娘さんは、「はい、お待ちしています」と答えました。

    約束の七年が経ちました。
    緑色の服の男が再び現れて、「よくやったな、熊の皮男。お前さんは約束を守った」と言いました。
    そして、熊の皮男さんの体をきれいに洗い、髪も爪も整え、立派な服を着せると、それはそれは素敵な若者になりました。熊の毛皮も、ポケットのお金も、緑色の服の男と一緒に消えてしまいました。

    若者は、約束通り、娘さんのいる宿屋へ向かいました。
    宿屋の主人は、こんな立派な若者が誰だかわかりません。上の二人の娘さんも、うっとりして見ています。
    若者が一番下の娘さんの前に進み出て、持っていた半分の指輪を見せると、娘さんは自分の持っていた半分の指輪と合わせました。二つの指輪はぴったりと一つになりました。
    「まあ、あなたが!」娘さんは驚き、そして喜びました。
    二人は結婚して、いつまでも幸せに暮らしました。

    それを見た二人の姉さんたちは、自分たちが熊の皮男さんを馬鹿にしたことをとても後悔し、恥ずかしくなりました。そして、優しい心を持つことの大切さを知ったのでした。

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