• うまい商売

    グリム童話
    七年間、ハンスは一生懸命働きました。とうとう、お給料をもらう日がやってきました。親方は、ハンスにそれはそれは大きな、ピカピカ光る金の塊をくれました。「これで好きなものを買うといい」
    「わあ、すごい!ありがとうございます!」ハンスは金の塊を布に包んで、お母さんの待つ家へと歩き出しました。

    でも、金の塊はずっしりと重たくて、ハンスはすぐに疲れてしまいました。「ふう、重たいなあ。もっと軽いものだったらいいのに」
    ちょうどその時、馬に乗った男の人がやってきました。馬は軽やかに走っています。
    「こんにちは!その金の塊、重そうだねえ。よかったら、わしのこの元気な馬と交換しないかい?」
    「まあ、それはいい考えだ!」ハンスは喜んで金の塊を馬と交換しました。

    ハンスは馬にまたがりましたが、馬は元気すぎてブルブルッとハンスを振り落としてしまいました。「いたたた!これじゃあ、ちっとも楽しくないや」
    すると今度は、牛を連れた農夫が通りかかりました。
    「おや、どうしたんだい?その馬はじゃじゃ馬だねえ。わしのこの牛なら、毎日おいしいミルクをくれるし、バターもチーズも作れるよ」
    「ミルクにバターにチーズ!それは素晴らしい!」ハンスは馬を牛と交換しました。

    ハンスは牛を連れて歩き出しましたが、お腹が空いてきました。「そうだ、ミルクを搾ろう!」でも、牛は怒ってハンスを蹴飛ばすばかりで、ミルクを一滴もくれません。「うーん、この牛もダメだなあ」
    そこへ、豚を追い立てる肉屋さんがやってきました。
    「おやおや、その牛はミルクも出さないのかい?わしのこの丸々太った豚なら、おいしいソーセージやベーコンになるよ」
    「ソーセージ!ベーコン!よだれが出ちゃうなあ!」ハンスは牛を豚と交換しました。

    豚を連れて意気揚々と歩いていると、ガチョウを抱いた男の子がやってきました。
    「こんにちは!その豚、どこへ持っていくの?」
    「ソーセージにするんだ!」
    「ふうん。でも、その豚、隣の村で盗まれた豚だって噂だよ。見つかったら大変だ」
    「ええっ!それは困る!」ハンスは青くなりました。
    「よかったら、僕のこの立派なガチョウと交換してあげるよ。このガチョウなら、おいしい焼き鳥になるし、羽はふわふわの枕になるよ」
    「焼き鳥と枕!それは安心だ!」ハンスは豚をガチョウと交換しました。

    ガチョウを抱えて歩きましたが、ガチョウは重たいし、ガーガーうるさくてたまりません。「腕は疲れるし、耳も痛いや」
    すると、砥石(といし)を回しながら歩いてくる、ハサミ研ぎ屋さんがやってきました。
    「おや、そのガチョウ、重そうだねえ。わしのこの砥石と交換しないかい?これがあれば、どんな刃物もピカピカに研げるよ。それに、もう一つ、ただの石もつけてあげよう」
    「刃物が研げる石かあ。それは便利そうだ!」ハンスはガチョウを砥石ともう一つの石と交換しました。

    ハンスは二つの石を運びましたが、これがまた、とんでもなく重たいのです。「ああ、喉が渇いたなあ。それに、この石、本当に重たい…」
    ちょうど井戸が見えてきました。ハンスは石を井戸の縁に置いて、水を飲もうと身を乗り出しました。その拍子に、うっかり二つの石が井戸の中へ、ドッボーン!と落ちてしまいました。

    ハンスは一瞬あっけにとられましたが、すぐにニッコリ笑いました。
    「やったあ!これで重たいものも何もない!僕はなんて運がいいんだろう!世界一の幸せ者だ!」
    ハンスは身も心もすっかり軽くなって、お母さんの待つ家へと、スキップしながら帰っていきました。

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