六羽の白鳥
グリム童話
森の奥深くに、それはそれは立派なお城がありました。そこに住んでいたのは、七人の子どもたちを持つ優しい王様です。王様には六人のりりしい王子さまと、一人のかわいらしいお姫さまがいました。
ある日、王様は狩りの途中で道に迷ってしまいました。困っていると、一人のおばあさんが現れ、「美しい娘と結婚するなら、帰り道を教えてあげよう」と言いました。このおばあさん、実はちょっぴり怖い魔法使いだったのです。王様は仕方なく約束し、お城に新しいお妃様を迎えました。でも、王様は七人の子どもたちのことが心配で、森の奥の隠れ家にかくまいました。
新しいお妃様は、王様に子どもたちがいることを知り、面白くありません。ある日、こっそり子どもたちの隠れ家を見つけ出すと、魔法で編んだ六枚の小さなシャツを用意しました。お兄さんたちがそのシャツに触れると、あっという間に六羽の白鳥に姿を変え、空の彼方へ飛んでいってしまいました。たった一人残された妹姫は、悲しくてたまりません。
妹姫は、お兄さんたちを探して旅に出ました。森を抜け、野を越え、ようやく湖のほとりで六羽の白鳥を見つけました。夜になると、白鳥たちは人間の姿に戻りました。お兄さんたちは言いました。「僕たちを助けるには、アスターの花で六枚のシャツを編んでおくれ。そして、その間、六年間は決して口をきいたり笑ったりしてはいけないんだ」と。
妹姫は、森の木の洞にこもり、来る日も来る日もアスターの花を集めてはシャツを編み続けました。一言も話さず、微笑むこともしません。そんなある日、狩りに来ていた隣の国の若い王様が、美しい姫を見つけました。姫が話せないことを知っても、王様はその優しさに心惹かれ、お城に連れて帰ってお妃様にしました。
ところが、王様のお母さんであるお妃様は、口をきかない新しいお妃様が気に入りません。姫に赤ちゃんが生まれると、こっそり隠してしまい、「あのお妃様が赤ちゃんを食べてしまったのだ!」と嘘をつきました。姫は口がきけないので、弁解することもできません。とうとう、姫は火あぶりにされることになってしまいました。
火刑台に連れていかれるとき、ちょうど六年の歳月が経とうとしていました。姫は五枚のシャツを完成させ、最後の一枚もあと片袖を残すのみ。火がつけられようとしたその瞬間、空から六羽の白鳥が舞い降りてきました。姫が急いでシャツを投げかけると、白鳥たちは元の立派な王子様の姿に戻りました。ただ、一番下の弟だけは、片方の袖が間に合わなかったので、片腕が白鳥の翼のままでした。
お兄さんたちは、これまでのいきさつを王様に話し、妹姫の無実が証明されました。意地悪だった王様のお母さんは罰を受け、王様と姫、そして六人のお兄さんたちは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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