火の神ウルカヌス
ローマ神話
空の上、ずっとずっと高いところにある神様たちの国でのことです。
火と鍛冶の神様、ヴァルカンがいました。ヴァルカンは、もくもくと煙が出る火山の中で、カンカン、コンコン、毎日一生懸命ハンマーをふるって、素晴らしいものを作るのが得意でした。剣や盾、美しい飾り物まで、何でも作れちゃうんです。ただ、ヴァルカンは少しだけ足が不自由で、派手なことはあまり好きじゃない、真面目な神様でした。
そんなヴァルカンの奥さんは、愛と美の女神様、ヴィーナス。ヴィーナスは、それはそれはきれいで、いつもキラキラと輝いていました。明るくて、誰とでもすぐにお友達になれる、とっても魅力的な女神様です。
神様たちの王様ユピテルが、「ヴァルカンとヴィーナス、二人は結婚しなさい!」と決めたので、二人は夫婦になりました。でも、ヴィーナスは、いつも工房にこもっているヴァルカンよりも、強くてかっこいい戦いの神様マルスに、だんだん心が惹かれていきました。そして、とうとうヴァルカンに内緒で、マルスとこっそり会うようになってしまったのです。
ヴァルカンは、ヴィーナスのことが大好きだったので、そのことを知って、とっても悲しくなりました。そして、ちょっぴり怒りました。「よし、見てろよ!」ヴァルカンは物作りの名人です。彼は、目に見えないくらい細くて、でもとーっても丈夫な金の網を、何日もかけて作りました。
そしてある日、ヴィーナスとマルスがこっそりおしゃべりしている部屋のベッドの上に、その特別な網をそーっと仕掛けたのです。
案の定、ヴィーナスとマルスがベッドで仲良くしていると…バサッ!ヴァルカンが作った見えない網が、二人をしっかりと捕まえてしまいました。二人はびっくりして、もがけばもがくほど網に絡まって、動けなくなってしまいました。
「やったぞ!」ヴァルカンは、他の神様たちをみんな呼び集めました。「みんな、見てくれ!僕の奥さんとマルスが、こんなことをしているんだ!」
集まってきた神様たちは、網に捕まったヴィーナスとマルスを見て、最初はびっくりしましたが、そのうち、なんだかおかしくてクスクスと笑い出してしまいました。ヴィーナスとマルスは、顔を真っ赤にして、とっても恥ずかしがりました。
ヴァルカンは、まだ少し悲しい気持ちもありましたが、みんなに本当のことを知ってもらえて、少しだけスッキリしました。
この出来事の後、ヴィーナスはヴァルカンの賢さや、物作りの才能を、前よりもっとすごいなあって思うようになった…かもしれませんね。そして、マルスも少しだけ反省したかもしれません。
火山の神様ヴァルカンと、美しい女神ヴィーナスのお話は、こんな風にちょっとドキドキする、面白いお話なのでした。
1631 閲覧数