ウェスタと炉の女神
ローマ神話
空の上、神様たちがたくさん住んでいた、ずっと昔のお話です。
そこに、ウェスタという名前の、とっても心優しい女神さまがいました。ウェスタのお父さんはサトゥルヌス、お母さんはオプスという神様でした。
さて、このサトゥルヌスお父さん、ちょっぴり変わったところがありました。それは、自分の子どもたちが大きくなって自分より強くなるのが怖くて、赤ちゃんが生まれるとすぐに、なんとパクン!と飲み込んでしまうのです。ウェスタは一番最初に生まれて、お父さんに飲み込まれてしまいました。かわいそうに!でも大丈夫。しばらくして、弟のユピテルが、お兄さんやお姉さんたちみんなを助け出してくれたのです。
助け出されたウェスタは、とても穏やかで、みんなのお家が暖かくて幸せであることをいつも願っていました。太陽の神様アポロや、海の神様ネプトゥヌスなど、たくさんの立派な神様が「ウェスタ、結婚してください」と言ってきましたが、ウェスタは首を横に振りました。
「私は結婚するよりも、もっと大切な役目を果たしたいのです」と、一番えらい神様である弟のユピテルにお願いしました。
「それはどんな役目だい?」ユピテルが聞くと、ウェスタは答えました。
「お家の中にある『かまど』の火を、いつも燃え続けさせて、家族みんなを温かく見守ることです。その火は、家族の心の灯りにもなるでしょう。」
ユピテルはウェスタの優しい心と強い願いを認めて、彼女を「かまどと家庭の火の女神」にしました。
それからというもの、ローマのどの家にも、ウェスタに捧げられたかまどがあり、そこにはいつも聖なる火が大切に灯されていました。この火は、家族が仲良く暮らすための中心であり、温かさと安全のしるしだったのです。お料理をしたり、寒い日に暖まったり、みんなが火の周りに集まりました。
ローマの街の中心にはウェスタの大きな神殿もあって、そこでは「ウェスタの巫女」と呼ばれる特別な役目の女性たちが、昼も夜も聖なる火が消えないように、一生懸命お世話をしていました。もしこの大切な火が消えてしまったら、ローマの街に何か悪いことが起こるかもしれないと、みんなが心配するほどでした。
ウェスタは、他の神様たちのように大きな戦いをしたり、空を駆け巡るような派手な冒険をしたりはしませんでした。でも、人々の毎日の暮らしの中で、一番大切な「お家」と「家族」の温もりを、静かに、そして力強く守ってくれる、なくてはならない女神さまだったのです。
だから、みんながお家でホッとする温かさを感じるとき、それはもしかしたら、ウェスタが今も昔も変わらず、私たちをそっと見守ってくれているからかもしれませんね。
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