ケレスと農業の女神
ローマ神話
みんな、どうして春になるとお花が咲いて、冬になると寒くなるか知ってる? 今日はね、そんな季節の秘密にまつわる、ある女神さまとその娘のお話だよ。
むかしむかしよりも、もーっと昔のこと。大地に豊かな実りをもたらす、心優しい女神セレスがいました。セレスには、プロセルピナという、それはそれは可愛らしい娘がいました。プロセルピナは、お日さまみたいに明るくて、お花畑で遊ぶのが大好きな女の子でした。セレスは、そんなプロセルピナを宝物のように大切にしていました。
ある晴れた日、プロセルピナが野原でお花を摘んでいると、突然、地面がゴゴゴゴ…と音をたてて割れました!そして、暗くて深い地下の世界から、馬車に乗ったプルートという王様が現れたのです。プルートは地下の世界の王様で、プロセルピナの美しさに一目ぼれしてしまったのです。「なんてきれいな娘だろう!ぜひ私のお嫁さんに!」プルートはあっという間にプロセルピナを抱きかかえ、自分の地下の王国へと連れ去ってしまいました。
「助けて、お母様!」プロセルピナの声は、閉じていく地面に吸い込まれてしまいました。
娘の叫び声を聞いたセレスは、野原に駆けつけましたが、そこにはプロセルピナの姿はなく、摘みかけのお花が散らばっているだけでした。セレスは悲しみのあまり、髪を振り乱し、松明を手に、世界中をプロセルピナを探して歩き回りました。でも、どこにも娘は見つかりません。
愛する娘を失ったセレスは、悲しくて悲しくて、大地に恵みを与える仕事をする気力をなくしてしまいました。セレスが悲しむと、大地も元気をなくします。緑の草は枯れ、お花はしおれ、畑の作物は実らなくなりました。木々は葉を落とし、世界はだんだん寒くて暗い、寂しい場所になってしまったのです。人々は食べ物がなくて困り果てました。
これを見て心配したのが、神々の王ユピテルです。「このままでは人間たちが大変なことになる。セレスの悲しみをどうにかしなければ。」ユピテルは、プルートに「プロセルピナを母親の元へ返しなさい」と命令しました。
プルートはユピテルの命令には逆らえませんでしたが、プロセルピナと離れたくありませんでした。そこで、プロセルピナが地上へ帰る直前に、こう言いました。「お別れの前に、このザクロの実を少しだけ食べておゆきなさい。」プロセルピナは、お腹が空いていたこともあり、プルートにすすめられるまま、ザクロの実を数粒だけ食べてしまいました。
実は、地下の世界の食べ物を口にした者は、完全に地上へ戻ることはできない、という決まりがあったのです。プルートはそれを知っていて、わざとプロセルピナにザクロを食べさせたのでした。
このことを知ったユピテルは困りましたが、良い考えを思いつきました。「プロセルピナは、一年のうち、数ヶ月はプルートと一緒に地下の世界で過ごし、残りの月日は母親のセレスと地上で過ごすことにしよう。」
こうして、プロセルピナが地下の世界へ行ってしまうと、母セレスは悲しみのあまり、大地は再び寒く暗い冬に包まれます。でも、プロセルピナが地上に戻ってくると、セレスは心から喜び、大地は再び緑と花でいっぱいになり、暖かい春がやってきて、夏には豊かな実りがもたらされるのです。
だから、みんなが感じる季節の移り変わりは、プロセルピナが地上と地下の世界を行き来しているしるしなんだって。おしまい。
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