• 神武天皇の東征

    日本神話
    太陽の光がきらきら輝く、南の国に、カムヤマトイワレビコという、とっても元気で賢い王子さまがいました。イワレビコ王子は、お兄さんのイツセノミコトと一緒に、「もっと東の方へ行って、素晴らしい国を作ろう!」と決めました。

    ふたりは大きな船に乗って、家来たちと「エイエイオー!」と元気に出発しました。海をぐんぐん進んで、ある大きな川の河口に着きました。
    「よし、ここから上陸だ!」
    ところが、そこにはナガスネヒコという、とても強い豪族が待ち構えていました。「ここは俺たちの土地だ!通さんぞ!」
    いきなり戦いが始まりました。ドーン!ガシャーン!矢がびゅんびゅん飛び交います。
    その戦いで、お兄さんのイツセノミコトは、ナガスネヒコの放った矢に腕を射られてしまいました。
    「ううっ…太陽に向かって戦ったのがいけなかったんだ…太陽の子孫なのに…」
    イツセノミコトは、太陽の神様の子孫である自分たちが、太陽の昇る東に向かって戦ったことを悔やみながら、だんだん弱っていき、とうとう遠い海で静かに息を引き取りました。まるで、空のお星さまになったみたいでした。

    イワレビコ王子はとっても悲しかったけれど、お兄さんの言葉を胸に、勇気をふりしぼって、今度は太陽を背にして戦えるように、南の方へ船を回して進みました。
    険しい山を越え、荒波を乗り越え、やっとのことで熊野という深い森のあたりに着きました。
    ところが、そこで大きな悪い熊が現れたのか、それとも土地の神様の怒りにふれたのか、イワレビコ王子も家来たちも、みんなバタバタと倒れて眠ってしまいました。まるで魔法にかかったみたい!

    そのとき、遠い天の国では、太陽の女神アマテラスオオミカミと、もう一人の偉い神様タカミムスビがこの様子を見て心配していました。
    「イワレビコを助けなければ!」
    そこで、タケミカヅチという強い神様に「お前が行って助けてやれ」と頼みました。
    タケミカヅチは「私が行かなくても、この剣を地上に降ろせば大丈夫でしょう」と言って、自分のすごい剣を、熊野に住むタカクラジという人の夢の中に届けました。
    タカクラジは夢のお告げ通り、朝起きて自分の蔵を探すと、本当にピカピカに光る立派な剣があったのです!
    「これは大変だ!」タカクラジはその剣を持って、眠っているイワレビコ王子のところに駆けつけ、剣を差し出しました。
    イワレビコ王子がその剣を受け取ったとたん、不思議な力で悪い気は吹き飛び、王子も家来たちもパチッと目を覚ましました。

    「助かったぞ!でも、この先はどう進めばいいんだろう…道がわからない…」
    イワレビコ王子が困っていると、アマテラスオオミカミとタカミムスビが、今度は空から大きなカラスを遣わしました。そのカラスは、足が三本あるヤタガラスという賢いカラスでした。
    ヤタガラスは「私が道案内をしましょう。カァー、カァー!」と言って、険しい山道もスイスイ、イワレビコ王子たちを安全な場所へと導いてくれました。

    ヤタガラスのおかげで、イワレビコ王子はついに大和の国、今の奈良県あたりにたどり着きました。
    そこでも、まだ手強い敵がいました。兄ウカシと弟ウカシという兄弟がいて、兄ウカシはイワレビコ王子をだまそうと罠を仕掛けましたが、弟ウカシがこっそり教えてくれたので、逆に兄ウカシをこらしめることができました。
    その後も、イワレビコ王子はヤタガラスの助けや、不思議な剣の力、そして何より王子自身の勇気と知恵で、次々と困難を乗り越えていきました。
    そしてとうとう、最初に戦ったナガスネヒコともう一度対決し、見事に打ち破って、大和の国を平和にすることができたのです。

    イワレビコ王子は、橿原(かしはら)という場所に立派な宮殿を建てました。
    そして、みんなに「あなたが私たちの王様です!」と推されて、日本の最初の天皇、「神武天皇(じんむてんのう)」となったのです。
    こうして、神武天皇は、みんなが仲良く平和に暮らせる、素晴らしい日本の国のはじまりを作ったのでした。めでたし、めでたし。

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