ゼウスと馬
イソップ寓話
広い野原を、一頭の馬がそれはそれは得意そうに走っていました。
「見て見て!僕のツヤツヤの毛並み!僕の速い足!僕はなんて素晴らしいんだろう!」
馬は自分の姿が大好きでしたが、同時にもっとすごくなりたいとも思っていました。
ある日、馬は神様たちの王様、ゼウスのところへ行きました。
「ゼウス様、お願いがあります!」馬は言いました。
「ほう、何かな?」ゼウスは優しく尋ねました。
「僕を、もっともっと強く、もっともっと速く、もっともっとかっこよくしてください!例えば、鳥みたいに空を飛べる翼とか、もっと力強い足とか、もっとするどいツノとか!」
ゼウスはにっこり笑って言いました。
「面白いことを言うのう。よし、お前の願いを叶えてやろう。」
ゼウスが手を振ると、どうでしょう!
馬の背中からは大きな翼がバサッと生え、足は岩みたいにゴツゴツと太くなり、頭からは立派なツノがニョキッと伸びました。
馬はびっくり!そして、ワクワクしながら動いてみました。
でも、翼は重くてうまく走れません。ゴツゴツの足はなんだか歩きにくくて、前みたいに軽やかにステップできません。立派なツノは、他の動物たちが怖がって逃げてしまう原因になりました。
「あれ?なんだか変だぞ…」馬は思いました。「全然かっこよくないし、前みたいに楽しく走れない!」
翼も、太い足も、ツノも、なんだか邪魔なだけです。
馬はしょんぼりして、またゼウスのところへ行きました。
「ゼウス様…元に戻してください…」馬は涙目で言いました。「今の僕は、全然幸せじゃありません。」
ゼウスは優しく頷きました。
「そうか。今の自分がいかに素晴らしいか、わかったかな?欲張りすぎると、大切なものを見失ってしまうこともあるのだよ。」
ゼウスがもう一度手を振ると、馬は元の美しい姿に戻りました。翼も、ゴツゴツの足も、ツノも消えていました。
馬は、野原を思いっきり駆け回りました。
「ああ、やっぱりこれが一番だ!」
それからというもの、馬はもう自分の姿に不満を言うことはありませんでした。ありのままの自分でいることが、一番幸せなんだと気づいたのです。
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