• 鷲と狐

    イソップ寓話
    空高く、大きな木のてっぺんに、ワシが巣を作って住んでいました。そして、その木のずーっと下、地面の穴にはキツネが家族と暮らしていました。

    ワシとキツネは、はじめはとっても仲良し。「こんにちは、ワシさん!」「やあ、キツネくん、今日もいい天気だね!」なんて、毎日挨拶を交わすほどでした。

    ある春の日、キツネの穴からは、可愛い子ギツネたちの元気な声が聞こえてきました。同じころ、ワシの巣でも、小さなヒナたちがピーピーと鳴いていました。

    ワシは、自分のヒナたちにごちそうをあげたいと考えました。でも、狩りに出かけるのはちょっと面倒くさい。そこで、ワシはひどいことを思いついたのです。
    「そうだ!キツネの子どもを捕まえれば、簡単じゃないか!」

    キツネがお母さんギツネと一緒にお出かけしているすきに、ワシはさっと空から舞い降りて、残っていた子ギツネを一匹、あっという間につかんで自分の巣へ運んでしまいました。

    帰ってきたキツネはびっくり仰天!
    「ああ、私のかわいい赤ちゃんがいない!ワシさん、なんてことをしてくれたの!」
    キツネは涙をぽろぽろ流しながら、木の上のワシに向かって叫びました。
    「お願い、私の赤ちゃんを返して!」

    でも、ワシは高い巣の上から鼻で笑って言いました。
    「ふん、お前みたいな地面のやつに、何ができるっていうんだい?この子はうちのヒナのごはんだよ。」
    キツネは悔しくてたまりません。木に登ろうとしても、ツルツル滑って全然登れません。

    キツネは天に向かって強く強く願いました。
    「神様、どうかこのワシのひどい行いを、見ていてください。いつかきっと、このワシに罰があたりますように!」

    ちょうどその時、近くの村でお祭りがあったらしく、人々が大きな火をたいて、お肉を焼いていました。
    ワシはそれを見て、またよからぬことを考えました。
    「おや、うまそうな肉だ。あれも一つ、もらっていこう。」
    ワシは焼きたてのお肉を一つ、足でひょいとつかんで巣に持ち帰ろうとしました。

    ところが、そのお肉には、まだ赤く燃えている小さな炭のかけらがくっついていたのです!
    ワシが巣に戻ると、その小さな炭から、あっという間に巣に火が燃え移ってしまいました。
    「わー!大変だ!巣が燃えちゃう!」
    ワシは大慌て。自分のヒナたちも危ない!

    パニックになったワシは、くわえていたキツネの赤ちゃんを、ポトリと下に落としてしまいました。それだけでなく、ワシのヒナたちも、火と煙に驚いて、巣から次々と地面に落ちてしまったのです。

    キツネは、下に落ちてきた自分の赤ちゃんを見つけました。残念ながら、火で少し焼けてしまって、もう助かりませんでしたが、キツネはそれを悲しむよりも先に、ワシのヒナたちが自分の目の前に落ちてきたのを見ました。

    キツネは、怒っていたワシに向かって静かに言いました。
    「ワシさん、あなたが私の大事な子にしたこと、今度はあなたが同じ目にあったのよ。」
    そして、キツネはワシのヒナたちを、ワシが見ている前で、自分の子どもたちのために、食べてしまいました。

    ワシは、自分の巣も、自分のヒナも、そして盗んだ子ギツネも失い、ただただ空からそれを見ているしかありませんでした。

    悪いことをすれば、いつか自分にも同じような悪いことが返ってくる。このお話は、そんなことを教えてくれているのかもしれませんね。

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