死神の使い
グリム童話
あるところに、それはそれは貧しい男がいました。男にはたくさんの子どもがいましたが、また新しい赤ちゃんが生まれました。男は十三人目の赤ちゃんの世話をしてくれる名付け親を探しに出かけました。
道を歩いていると、神様が現れました。「私が名付け親になろう。お前の子を幸せにしてやろう。」
でも男は言いました。「いいえ、結構です。あなたは金持ちには優しく、貧乏人には冷たいですから。」
次に現れたのは悪魔でした。「わしが名付け親になれば、お前の子に世界の宝物と喜びを全部やろう。」
男はまた断りました。「いやいや、あなたもダメです。あなたは人をだまして不幸にするでしょう。」
最後にやってきたのは、骸骨みたいな姿の死神でした。「わしが名付け親になろう。」
「あなたは誰ですか?」と男が尋ねると、死神は答えました。「わしは死神だ。わしは金持ちも貧乏人も、みんな平等に連れていく。」
男は喜びました。「それなら、あなたこそふさわしい!あなたは誰でも公平に扱いますからね。」
こうして、死神は男の子の名付け親になりました。
男の子が大きくなったある日、死神がやってきて言いました。「お前に不思議な草をやろう。これを使えば、どんな病気も治せる医者になれる。ただし、約束がある。病人の枕元に行ったとき、わしが頭の方に立っていたら、その人は助かる。草を使ってもいい。だが、わしが足元に立っていたら、その人はわしのものだ。どんなことをしても助けてはならん。」
若者はすぐに有名な医者になりました。王様が病気になったときも呼ばれました。
若者が王様の部屋に入ると、死神は王様の足元に立っていました。若者はがっかりしましたが、ふと良いことを思いつきました。「死神様をだませないかな?」
そして、家来に命じて王様のベッドをくるりと回させ、頭と足の位置を逆にしたのです。すると死神は頭の方に立つことになり、若者は草を使って王様を治しました。
死神はちょっと眉をひそめましたが、「まあ、一度くらいはいいか」と、何も言いませんでした。
次に、お姫様が重い病気になりました。若者が呼ばれて行くと、また死神がお姫様の足元に立っていました。
死神は怒った顔で言いました。「今度だましたら、お前の命はないぞ!」
でも、若者はお姫様の美しさに心を奪われ、またベッドをくるりと回してしまいました。そして草を使ってお姫様を治したのです。
死神はカンカンに怒りました。「もう許さん!」
死神は若者の腕を掴むと、暗い洞窟へ連れて行きました。そこには、数えきれないほどのろうそくが燃えていました。長いもの、短いもの、元気に燃えているもの、今にも消えそうなもの…。
「これは人々の命の光だ」と死神は言いました。
「僕のはどれですか?」若者が聞くと、死神は今にも消えそうな、小さなろうそくを指さしました。「これがお前の命の火だ。」
「お願いです、死神様!新しいろうそくに火を移してください!」若者は泣きながら頼みました。
死神は少し考えてから言いました。「よし、やってみよう。」
そして、新しいろうそくを取ろうとするふりをしましたが、わざと古いろうそくを倒してしまいました。
プツン。若者の命の火は消えてしまい、若者はその場に倒れてしまいました。
死神との約束は、やっぱり守らなくちゃいけなかったんですね。
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