• 天国の農夫

    グリム童話
    空の上には、キラキラ輝く天国があるんだって。そこへ行った、ある農夫さんのお話だよ。

    むかしむかし、あるところに、とても貧しいけれど、正直で働き者の農夫がいました。毎日一生懸命畑を耕し、神様に感謝しながら暮らしていました。とうとう農夫が年をとって死んでしまうと、天国の門の前にやってきました。

    天国の門番をしていたのは、聖ペトロさんです。ペトロさんは農夫を優しく迎え入れ、「ようこそ、天国へ。ここでは毎日が楽しく、美しい音楽が流れ、みんな幸せに暮らしているよ」と言いました。
    農夫は天国の中に入ってびっくり!本当に素晴らしいところで、みんなニコニコしていて、悲しいことなんて一つもなさそうです。「わあ、なんて素敵なところだろう!」農夫はとても喜びました。

    しばらく天国で楽しく暮らしていた農夫ですが、ある日、天国がいつもよりずっと賑やかになりました。金色のラッパが鳴り響き、たくさんの天使たちが歌いながら、誰かを盛大に迎えています。見ると、ピカピカの馬車に乗って、派手な服を着たお金持ちがやってきたのです。地上でとても贅沢な暮らしをしていた人でした。

    農夫はそれを見て、ちょっと面白くありませんでした。ペトロさんのところへ行って、こう言いました。
    「ペトロさん、あれは少し不公平じゃないですか?あのお金持ちは、地上でも毎日ごちそうを食べて、立派な家に住んで、何不自由なく暮らしていたのに。天国へ来ても、あんなに歓迎されるなんて。私は地上ではずっと貧乏で苦労したのに、天国ではみんなと同じように静かに過ごしているだけです。」

    ペトロさんはにっこり笑って言いました。
    「心配いらないよ、優しい農夫さん。あのお金持ちはね、地上で贅沢な暮らしをした一日につき、天国では一日だけ、あのように盛大にお祝いされるんだ。でも、それが終わったら、あとは君と同じように、静かに天国の幸せを楽しむだけさ。それに比べて君はどうかな?君は地上で貧しくても、いつも正直に、真面目に働き、人に親切にして、神様を信じていたね。だから、君の天国での喜びは、一日や二日で終わるものじゃない。これからずーっと、永遠に続くんだよ。毎日が、今日みたいに素晴らしい日なんだ。」

    それを聞いて、農夫さんの心はぱあっと明るくなりました。「そうだったのか!それならよかった!」
    農夫さんは、お金持ちを羨む気持ちもなくなり、天国での毎日が、本当に幸せでいっぱいになったということです。そして、いつまでもいつまでも、天国で楽しく暮らしましたとさ。

    1594 閲覧数