ブラッケル家の娘
グリム童話
深い深い森の、そのまた奥に、小さなおうちがありました。そこには、一人のおばあさんが住んでいました。このおばあさん、実は魔法が使える、ちょっと不思議なおばあさんだったのです。
ある日、隣の国から来た若い王子さまが、狩りの途中で道に迷ってしまいました。「どうしよう、お城に帰れないや」王子さまが困り果てて森をさまよっていると、おばあさんの小さなおうちを見つけました。
「すみません、道に迷ってしまって…」王子さまが言うと、おばあさんはにっこり。「おやおや、お困りだね。もしよかったら、わしのところで七年間働いておくれ。そうしたら、お城へ帰る道を教えてあげよう」
王子さまは他に頼る人もいなかったので、承知しました。
王子さまのお仕事は、おばあさんの飼っているたくさんのガチョウのお世話をすること。毎日、ガチョウたちを草地へ連れて行き、夕方になると小屋へ連れ戻します。そして、一番大事な約束は、おばあさんとは決して口をきいてはいけない、ということでした。
王子さまは毎日まじめに働きました。ガチョウたちは王子さまになつき、王子さまもガチョウたちが可愛くてたまりません。でも、おばあさんとは一言も話せないので、少し寂しい気持ちもありました。
何年かたったある晩のこと、王子さまはこっそりおばあさんの様子をのぞいてみました。すると、びっくり!おばあさんが古い皮をぬぐと、中からそれはそれは美しい娘さんが出てきたのです。娘さんは月の光を浴びて、キラキラと輝いていました。王子さまは、あまりの美しさに息をのみました。
次の日、王子さまは、おばあさんがぬぎすてた古い皮をそっと隠してしまいました。
夜になり、娘さんが皮を探しましたが、見つかりません。「あら、私の皮がないわ」
すると王子さまは初めて口を開きました。「あなたが元の姿に戻れないように、僕が隠しました」
おばあさん、いえ、美しい娘さんは言いました。「あなたは約束をよく守ってくれました。もう七年たちましたね。さあ、この宝物を持って、お城へお帰りなさい。そして、私をあなたのお嫁さんにしてくださいな」
娘さんは王子さまに、キラキラ光る宝石がたくさんつまった袋を渡しました。
王子さまはたくさんの宝物をもらって、お城へ帰りました。でも、七年もたっていたので、初めはだれも王子さまだと気づきませんでした。王子さまの服は古ぼけていたし、顔つきもすっかり大人っぽくなっていたからです。
でも、王子さまがこれまでの話をすると、王さまとお妃さまは大喜び。「まあ、本当によく帰ってきてくれた!」
そして、王子さまは、あの美しい娘さんを森からむかえに行き、二人はいっしょに幸せに暮らしましたとさ。ガチョウたちも、新しいお城で元気に鳴いていましたよ。
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