• 恐れを知らない王子

    グリム童話
    とある王国に、それはそれは勇敢な、というよりは、何が怖いのかさっぱり分からない男の子がいました。みんなが「きゃー!」と逃げ出すようなことでも、男の子は「へえ、面白いね」と首をかしげるばかり。

    「ねえ、お父さん。みんなが言う『ぶるぶるする』って、どんな感じなの?僕もやってみたい!」
    お父さんはため息をつきました。「お前は本当に何も怖くないんだなあ。よし、それなら旅に出て『ぶるぶる』を覚えてきなさい!」

    男の子は「ぶるぶる」を探す旅に出ました。
    最初の夜、古い教会の鐘つき堂で寝ることにしました。村の人が「あそこは夜中に幽霊が出るから気をつけて」と教えてくれましたが、男の子は「幽霊?会ってみたいな!」とわくわく。
    夜中、白い布をかぶった何かが「うらめしやー」と現れました。
    「なんだ、君か。ちょっとうるさいよ」男の子はそう言って、その白いものをポーンと階段から突き落としてしまいました。実はそれは、男の子を怖がらせようとした鐘つきのおじさんでした。男の子はやっぱり、ぶるぶるしませんでした。

    次に出会ったのは、王様からの挑戦状でした。
    「呪われたお城に三日間泊まれたら、お姫様と結婚させて、お城もやろう。ただし、今まで誰も生きて帰った者はいないぞ!」
    「面白そう!やってみます!」男の子は元気よくお城へ向かいました。

    お城の一日目の夜。大きな真っ黒な猫たちがたくさん現れて、九つのピンを並べてボーリングのような遊びを始めました。
    「僕も混ぜて!」男の子は猫たちと一緒に遊びました。ピンが足りなくなると、そばにあった骸骨の骨で新しいピンを作ってあげました。猫たちは大喜び。朝になっても、男の子はぶるぶるしませんでした。

    二日目の夜。煙突から、体の半分だけの男の人がどすーんと落ちてきました。
    「あれ?残りの半分はどこだい?」男の子が言うと、もう半分の体も落ちてきました。二つの半分はくっついて、一人の男の人になりました。
    「やあ!トランプでもしないかい?」男の子が誘うと、男の人は喜んで一緒に遊びました。やっぱり、ぶるぶるしませんでした。

    三日目の夜。大きなベッドに、ひげもじゃのおじいさんが横たわっていました。
    「もっと強いやつはいないのかい?」男の子が言うと、おじいさんはむくっと起き上がり、「わしと力比べじゃ!」と襲いかかってきました。
    男の子は力いっぱい戦って、おじいさんを打ち負かしました。すると、おじいさんは消えてなくなり、床下からキラキラ光る宝物がいっぱい出てきました。お城の呪いは解けたのです。

    男の子はお姫様と結婚し、立派なお城の主になりました。でも、まだ「ぶるぶる」がどんなものか分かりません。
    お姫様は考えました。「どうしたら、この人に『怖い』ってことを教えてあげられるかしら?」
    ある朝、男の子がぐっすり眠っている間に、お姫様はこっそりバケツを持ってきました。中には冷たいお水と、ぴちぴち跳ねる小さな魚がたくさん入っています。
    お姫様は、えいっ!と、そのバケツの水を男の子にかけました。
    「うわあああ!つめたい!魚が!ぶるぶるぶる!」
    男の子は飛び起きて、初めて体中が震えるのを感じました。
    「やったあ!これだ!これが『ぶるぶる』なんだね!」
    男の子は大喜び。お姫様もにっこり笑いました。
    こうして、男の子はついに「ぶるぶる」を覚えて、お姫様といつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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