• 野うさぎの花嫁

    グリム童話
    あるところに、お母さんと女の子が住んでいました。おうちのそばには、おいしそうなキャベツがたくさん植えられた畑がありました。

    ある朝、お母さんが女の子に言いました。「ねえ、畑を見てごらん。うさぎさんがキャベツをかじっているかもしれないわ。行って、追い払ってきてちょうだい。」

    女の子が畑に行くと、本当に小さくて可愛いうさぎが一匹、キャベツの葉っぱをもぐもぐ食べていました。女の子が「こら、うさぎさん!キャベツを食べちゃだめよ!」と言うと、うさぎはぴょんと顔を上げて言いました。「こんにちは、お嬢さん。よかったら、僕のしっぽに乗って、僕の結婚式に来てくれないかい?」

    女の子はびっくりしましたが、うさぎのふわふわのしっぽはなんだか気持ちよさそうです。「ええと…」と迷っていると、うさぎは「さあ、早く!」と女の子を誘いました。女の子は、うさぎのしっぽにちょこんと座りました。

    うさぎはぴょんぴょん跳ねて、あっという間に森の奥深く、自分の巣穴へと女の子を連れて行きました。巣穴の中は、たくさんのうさぎたちでいっぱい!みんな結婚式のお祝いに来ていたのです。

    うさぎの花婿さんは、女の子に言いました。「さあ、お嬢さん、このおいしい青いキャベツをどうぞ。これが私たちの結婚式のごちそうだよ。」
    でも、女の子はなんだか悲しくなってしまいました。お母さんのことが心配で、おうちに帰りたくなったのです。それに、うさぎと結婚するなんて、考えてもみませんでした。

    女の子がしょんぼりしているのを見て、うさぎの花婿さんは尋ねました。「どうしたんだい?元気がないね。」
    「あのね、おうちに帰りたいの…」女の子は正直に言いました。

    うさぎの花婿さんは少し考えましたが、にっこり笑って言いました。「わかった。じゃあ、藁で君そっくりの人形を作って、君の服を着せて、窓のところに座らせておこう。そうすれば、僕が君と結婚したとみんな思うから、その間にこっそり帰るといいよ。」

    女の子は言われたとおりに、藁人形を作って自分の服を着せ、窓辺に座らせました。そして、うさぎたちが結婚式の準備でわいわい騒いでいるすきに、そーっと巣穴を抜け出して、おうちへ急ぎました。お母さんは、女の子が無事に帰ってきて大喜びしました。

    さて、結婚式の時間です。うさぎの花婿さんは窓辺の人形に声をかけました。「おーい、花嫁さん、こっちへおいで!」
    でも、人形は返事をしません。
    「おーい、聞こえないのかい?」うさぎさんはもう一度呼びましたが、やっぱり返事はありません。
    うさぎさんはちょっと怒って、人形をぽんと叩きました。すると、藁人形はぱたんと倒れて、服だけが残りました。

    うさぎさんはびっくり!「あれ?逃げられちゃった…」と、しょんぼりしてしまいました。
    でも、他のうさぎたちは「まあ、仕方ないさ!」「元気を出して!」と慰め、結局みんなで青いキャベツをたくさん食べて、楽しい宴会は続いたそうです。

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