灌木の茂み
アンデルセン童話
窓の外は、小鳥たちが楽しそうに歌っている、とってもいいお天気。でも、小さな男の子はベッドの中にいました。ちょっぴり風邪をひいて、お母さんが作ってくれた温かい飲み物を飲んでいるところです。それはね、ニワトコの花から作った、甘くていい香りのするお茶でした。
「ふー、ふー。」男の子がお茶を冷ましていると、どこからか、優しい声がしました。
「坊や、ニワトコのお茶は好きかい?」
見ると、ベッドのそばに、にこにこしたおじいさんが立っていました。あれ、いつの間に来たんだろう?
おじいさんは言いました。「そのニワトコの木にはね、たくさんの思い出が詰まっているんだよ。昔々、あるところに、元気な男の子と可愛らしい女の子がいたんだ。」
おじいさんの話は、まるでニワトコの湯気のように、ふんわりと始まりました。
その男の子と女の子は、大きなニワトコの木の下でよく遊びました。ニワトコの木は、春には白い小さな花をたくさん咲かせ、夏には涼しい木陰を作り、秋には黒い実をつけました。二人はその木が大好きでした。
やがて二人は大きくなり、結婚しました。新しいお家を建てたときも、庭には必ずニワトコの木を植えたそうです。「この木があると、なんだか安心するね」と二人はいつも話していました。
年月が流れ、二人もおじいさんとおばあさんになりました。子どもや孫たちに囲まれて、幸せに暮らしていました。そして、結婚して五十年目のお祝いの日がやってきました。
お庭のニワトコの木の下で、みんなが集まってお祝いをしました。ニワトコの木は、その年もたくさんの白い花を咲かせて、まるでお祝いの飾りみたいでした。おじいさんとおばあさんは、若い頃のように手を取り合って、ニワトコの木を見上げました。
「この木と一緒だったから、毎日が楽しかったねえ」おばあさんが言うと、おじいさんは優しく頷きました。
ニワトコの木も、そよそよと枝を揺らして、まるで「そうだよ、これからもずっと一緒だよ」と話しかけているようでした。
男の子がおじいさんの話を聞き終える頃には、ニワトコのお茶もすっかり飲み干していました。なんだか、体もぽかぽかして、元気が出てきたみたい。
「おじいさん、素敵なお話ありがとう!」
男の子がお礼を言うと、おじいさんはにっこり笑って、いつの間にか姿が見えなくなっていました。
あれ?夢だったのかな?
でも、窓の外を見ると、庭の隅っこに植えられたニワトコの木が、風に揺れていました。まるで、男の子に「元気になってよかったね」と手を振っているみたいに。男の子は、ニワトコの木がもっと好きになりました。
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