コウノトリ
アンデルセン童話
ある町のはずれの、一番高い屋根の上には、コウノトリの夫婦が大きな巣を作っていました。お母さんコウノトリは、巣の中でじっと卵を温めています。
「もうすぐ可愛いヒナたちが生まれるわね」
お母さんコウノトリが言うと、お父さんコウノトリは胸を張って言いました。
「ああ、僕がしっかり見張っているから大丈夫さ。元気な子が生まれるぞ!」
巣の下では、近所の男の子たちが遊んでいました。でも、その子たちはちょっといじわるで、コウノトリの巣を見上げては、へんてこな歌を歌ってからかうのです。
「コウノトリ、コウノトリ、足長さん!卵を落とすな、カタカタカタ!」
男の子たちは、コウノトリのくちばしがカタカタ鳴る音を真似て、大笑いしました。
お母さんコウノトリは心配でたまりません。
「あの子たち、私たちの赤ちゃんに何かするつもりかしら…」
「心配いらないよ」とお父さんコウノトリ。「あいつらには、それ相応のお返しをしてやるからね。でも、一人だけ、あの子たちと一緒に歌わない男の子がいるだろう?ペーターっていう子だ。あの子は優しいから、きっといいことがあるよ。」
やがて、巣の中では可愛いヒナたちが生まれました。四羽の元気なコウノトリの赤ちゃんです。お父さんとお母さんは、ヒナたちに魚やカエルを運び、飛び方や、くちばしをカタカタ鳴らす挨拶の仕方を教えました。ヒナたちはすくすく育ち、あっという間に飛べるようになりました。
秋が近づくと、コウノトリたちは南の暖かい国、エジプトへ旅立つ準備を始めます。でもその前に、コウノトリたちには大切な仕事がありました。それは、人間の赤ちゃんを届けることです。
コウノトリたちは、夜になると静かな湖へ飛んでいきました。そこでは、たくさんの人間の赤ちゃんが、スイレンの葉っぱの上ですやすやと眠っていました。夢を見ているのか、にこにこ笑っている赤ちゃんもいれば、ちょっとむくれている赤ちゃんもいます。
「さあ、ペーター君のおうちからだ」
お父さんコウノトリは、一番元気で賢そうな男の子の赤ちゃんと、にっこり笑う可愛い女の子の赤ちゃんを選びました。ペーター君はいつもコウノトリに優しかったので、特別に二人です。
コウノトリたちは、その二人の赤ちゃんをそっとペーター君のおうちの窓辺に届けました。
次はいじわるな男の子たちのおうちです。
お父さんコウノトリは、ため息をつきながら言いました。
「あの子たちには、ずっと眠っていて、なかなか笑わない赤ちゃんを届けよう。そうすれば、赤ちゃんと遊べなくて、自分たちのしたことを少しは考えるだろう。」
そして、そういう赤ちゃんたちを選んで、それぞれの男の子のおうちに届けました。
仕事を終えたコウノトリ一家は、他のコウノトリたちと一緒に、エジプトへと元気よく飛び立っていきました。
「また来年の春に、可愛い赤ちゃんを連れて帰ってくるからね!」
空高く飛んでいくコウノトリたちを見ながら、ペーター君は新しい弟と妹と一緒に、にっこり笑って手を振るのでした。
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