トールとミョルニル
北欧神話
雷の神様トールが、ある朝、目を覚ますと、びっくり仰天! 大切な魔法のハンマー、ミョルニルがありません。
「ミョルニルがない!僕のミョルニルが!」トールは慌てふためきました。あのハンマーがないと、トールはただの力持ちのおじさんになってしまいます。
困ったトールは、いたずら好きだけど頭のいいロキに相談しました。
ロキは女神フレイヤから鷹の羽の美しいマントを借りて、巨人の国ヨトゥンヘイムへひとっ飛び。
そこで巨人の王様スリュムが、にやにやしながら言いました。「ミョルニルならわしが隠したぞ。美しいフレイヤをお嫁にくれないと返さん!」
ロキがアスガルドに戻ってこのことを伝えると、フレイヤはカンカン。「そんなの絶対いや!あの巨人のお嫁さんになるなんて!」と、首をぶんぶん振りました。
神様たちが困っていると、いつも遠くまで見渡せる見張りの神ヘイムダルがいいました。「トールがフレイヤのふりをして、花嫁衣裳で行けばいいんじゃないか?」
「ええーっ!僕が女装だって?」トールは顔を真っ赤にしましたが、ミョルニルを取り返すためには仕方ありません。
トールは美しいドレスを着て、顔にはベールをかぶり、すっかり花嫁さんの姿になりました。ロキも侍女のふりをして、一緒にヨトゥンヘイムへ出発です。
ヨトゥンヘイムでは、スリュム王が大喜びで結婚式のごちそうの準備をしていました。
いよいよごちそうが始まりました。花嫁姿のトールは、お腹がペコペコだったので、お肉をまるごと一頭、大きなサーモンを八匹もぺろりとたいらげ、お酒も樽からごくごく飲み干しました。
スリュムが「花嫁さん、すごい食欲だなあ」と首をかしげると、隣にいたロキがすかさず「フレイヤ様は、あなたに会えるのが嬉しくて、何日も何も召し上がれなかったのですわ。だから今、お腹が空いているのです」と、うまくごまかしました。
スリュムは花嫁のベールをそっと持ち上げてキスしようとしました。すると、ベールの下からトールの鋭い目がギラリ!
「まあ!花嫁の目が燃えているようだ!」スリュムがびっくりすると、またロキが「結婚式の興奮で、フレイヤ様の目は情熱的に輝いているのです!」と言いました。
いよいよ結婚の誓いのため、ミョルニルが花嫁のひざの上に置かれました。昔のならわしで、ハンマーで結婚を清めるのです。
その瞬間、トールはミョルニルをがっしと掴むと、花嫁衣裳をばっと脱ぎ捨てました!
「だまされたな、巨人め!」たくましい姿に戻ったトールはミョルニルを振り回し、あっという間にスリュムと他の巨人たちをやっつけました。
こうして、トールは無事にミョルニルを取り返し、アスガルドはまた平和になったのでした。めでたし、めでたし。
1684 閲覧数