• シラミとノミ

    グリム童話
    卵の殻を台所にして、小さなシラミさんと、元気なノミさんが一緒にビールを造っていました。ある日のこと、シラミさんが熱いビールの中に、ぽちゃんと落ちてしまいました。あっという間に、シラミさんはやけどをして、動かなくなってしまいました。

    それを見たノミさんは、びっくりして、わんわん大声で泣き始めました。「うわーん、シラミさーん!」

    「ノミさん、どうしてそんなに泣いているの?」と、そばにあった小さな戸が聞きました。
    「だって、シラミさんがビールでやけどしちゃったんだもの」とノミさんが言うと、戸は「まあ、かわいそうに!」と言って、ギーギーと音を立てて悲しみました。

    「戸さん、どうしてギーギー鳴いているの?」と、隅っこにいたほうきが尋ねました。
    「だって、シラミさんがやけどして、ノミさんが泣いて、それで私も悲しいのよ」と戸が言うと、ほうきは「それは大変だ!」と言って、シャッシャッと一生懸命に床を掃き始めました。まるで悲しみを掃き出すかのように。

    「ほうきさん、どうしてそんなに急いで掃いているの?」と、通りかかった小さな荷車が声をかけました。
    「だって、シラミさんがやけどして、ノミさんが泣いて、戸がギーギー鳴いて、それで私も掃いているの」とほうきが言うと、荷車は「なんてことだ!」と叫んで、ガラガラゴットンと猛スピードで走り出しました。

    「荷車さん、どうしてそんなに慌てて走っているの?」と、道端の灰の山が尋ねました。
    「だって、シラミさんがやけどして、ノミさんが泣いて、戸がギーギー鳴いて、ほうきがシャッシャッ掃いて、それで私も走っているんだ」と荷車がこれまでの話をすると、灰の山は「そんな悲しいことが!」と言って、ぼうぼうと燃え上がりました。まるで怒っているみたいに。

    「灰の山さん、どうしてそんなに燃えているの?」と、近くの小さな木が心配そうに聞きました。
    「だって、シラミさんがやけどして、ノミさんが泣いて、戸がギーギー鳴いて、ほうきがシャッシャッ掃いて、荷車がガラガラ走って、それで私も燃えているのよ」と灰の山が話すと、木は「ああ、なんてことでしょう!」と、自分の葉っぱをパラパラと全部落としてしまいました。

    「木さん、どうして葉っぱを全部落としちゃったの?」と、水を汲みに来た女の子が水差しを持ったまま尋ねました。
    「だって、シラミさんがやけどして、ノミさんが泣いて、戸がギーギー鳴いて、ほうきがシャッシャッ掃いて、荷車がガラガラ走って、灰の山がぼうぼう燃えて、それで私も葉を落としたの」と木が話すと、女の子は「まあ、なんて悲しいお話!」と驚いて、持っていた水差しをガチャンと割ってしまいました。

    「お嬢ちゃん、どうして大事な水差しを割っちゃったの?」と、そばの泉が優しく尋ねました。
    「だって、シラミさんがやけどして、ノミさんが泣いて、戸がギーギー鳴いて、ほうきがシャッシャッ掃いて、荷車がガラガラ走って、灰の山がぼうぼう燃えて、木が葉っぱを落として、それで私も水差しを割っちゃったの」と女の子がこれまでの全部の話をすると、泉は「それはあまりにも悲しすぎるわ」と言って、わあわあと溢れ出し、とうとう大きな洪水になりました。

    そして、その洪水で、みんなみんな流されてしまいましたとさ。本当に、小さな出来事が、大きな大きな騒ぎになっちゃったんですね。

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