• 歌う骨

    グリム童話
    たいへん!たいへん! ある国がおおさわぎです。森にすむ、とっても乱暴なイノシシが畑をめちゃくちゃにしていたからです。
    王様は困って言いました。「このイノシシを退治した勇気のある者には、わしの娘、お姫様と結婚させて、国の半分をやろう!」

    これを聞いて、貧しい家の二人の兄弟が「よし、やってみよう!」と森へ向かいました。お兄さんはちょっといじわるで、弟はとても優しい心の持ち主でした。二人は森の別々の入り口から入っていきました。

    優しい弟が森の中を進んでいると、小さな親切なおじいさんに出会いました。おじいさんは言いました。「おまえさんの心はきれいだ。この魔法のヤリをあげよう。これがあれば、どんなイノシシだって怖くない。」
    弟はお礼を言ってヤリを受け取り、ずんずん進むと、例の大きなイノシシが現れました! でも、魔法のヤリのおかげで、見事にイノシシを退治することができました。

    弟は大きなイノシシをかついで、意気揚々と帰り道を歩いていました。すると、橋の近くで、先に出発したはずのお兄さんに出会いました。お兄さんは、弟が手柄を立てたのを見て、うらやましくて、くやしくてたまりません。
    「ちょっと休んでいかないか?」お兄さんはそう言って、弟が油断しているすきに、こっそり近づいて、ドシン! なんと、弟を倒してしまったのです。そして、かわいそうな弟を橋の下に埋めてしまいました。

    いじわるなお兄さんは、弟が倒したイノシシを自分が退治したかのように見せかけて、王様のところへ行きました。「王様、私がやっつけましたぞ!」
    王様は大変喜び、約束通り、お兄さんをお姫様と結婚させ、国の半分を与えました。

    何年も経ちました。
    ある日、一人の羊飼いが羊の群れを連れて、例の橋のそばを通りかかりました。ふと見ると、橋の下で、人間の骨のような、白くてピカピカ光るものを見つけました。
    「これはきれいな骨だ。笛を作るのにちょうどいいぞ。」
    羊飼いはその骨を持ち帰り、素敵な笛を作りました。

    さて、羊飼いがその笛を吹いてみると、どうでしょう! 笛は勝手に歌いだしたのです。
    「ああ、羊飼いさん、吹いているのは僕の骨。
    兄さんが僕をやっつけて、
    イノシシの手柄を横取りし、
    橋の下に埋めたんだよ。」

    羊飼いはびっくり仰天! こんな不思議な笛は見たことがありません。羊飼いは急いで王様のところへ行き、この笛を吹いて聞かせました。
    笛は王様の前でも同じ歌を歌いました。

    王様は歌を聞いて全てを悟りました。「なんと!」
    すぐに橋の下を調べさせると、そこには本当に弟の骨が見つかりました。
    悪いお兄さんは、もう嘘をつき通すことはできず、本当のことを白状しました。

    いじわるなお兄さんは、ふさわしい罰を受けました。
    そして、かわいそうな弟の骨は、お城のそばのきれいな場所に、丁重に埋葬されました。

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