ブレーメンの音楽隊
グリム童話
あるところに、年をとったロバがいました。もう重い荷物を運ぶ力がなくなったので、ご主人さまはロバを役に立たないと思い始めました。「このままじゃ、ひどい目に合わされるかもしれない」そう思ったロバは、そうだ、ブレーメンの町へ行って、音楽隊に入ろう!と決めて、家を飛び出しました。
トボトボ歩いていると、道端でハアハア息を切らしている犬に出会いました。「どうしたんだい、わんちゃん?」「もう年をとって、狩りのお手伝いができなくなったから、ご主人さまに追い出されちゃったんだよ。」ロバは言いました。「かわいそうに。それなら、一緒にブレーメンへ行かないか?音楽隊になるんだ。」犬は「わん!それはいい考えだ!」と喜んで、一緒に行くことにしました。
もう少し行くと、今度はしょんぼりした猫が座っていました。「にゃーご、どうしたんだい?」「歯が弱ってネズミを捕まえられなくなったから、お家の人に川に捨てられそうになったんだ。」ロバは言いました。「それは大変だ!一緒にブレーメンへ行こうよ。君の夜の声は音楽隊にぴったりだよ。」猫は「にゃー、いいね!」と賛成して、仲間になりました。
三匹が農家のそばを通りかかると、門の上でニワトリが力の限り叫んでいました。「コケコッコー!助けてー!」「どうしたんだい、大きな声で。」「明日、お客さんが来るからって、スープにされちゃうんだ!」「それは大変だ!」とロバが言いました。「君の素晴らしい声があれば、ブレーメンの音楽隊で大スターになれるよ!一緒に行こう!」「コケコッコー!行く行く!」ニワトリも大喜びで仲間入りしました。
四匹はブレーメンを目指して歩き続けましたが、一晩では着きません。日が暮れて、森の中で休むことにしました。すると、遠くに明かりが見えました。「あそこなら、何か食べ物があるかもしれないね。」行ってみると、それはどろぼうたちの隠れ家でした。中ではどろぼうたちがごちそうを並べて、楽しそうに騒いでいます。
「あのごちそう、食べたいなあ。」「どうすれば、どろぼうたちを追い出せるかな?」四匹は相談しました。そして、いい考えを思いつきました。ロバが前足で窓に手をかけ、その背中に犬が飛び乗り、犬の背中に猫が乗り、最後にニワトリが猫の頭の上に乗りました。準備はいいですか?「いっせーのーで!」
ロバは「ヒーヒーン!」と鳴き、犬は「ワンワン!」と吠え、猫は「ニャーゴ!」と叫び、ニワトリは「コケコッコー!」と歌いました。四匹の鳴き声が合わさって、ものすごい音が響き渡りました。どろぼうたちは「うわー!化け物だー!」とびっくり仰天。恐ろしくなって、一目散に森の奥へ逃げていきました。
しめしめ、作戦成功です。四匹は家の中に入って、残っていたごちそうをたらふく食べました。お腹がいっぱいになると、それぞれ好きな場所で眠ることにしました。ロバは外のわらの山で、犬はドアのそばで、猫は暖かい暖炉のそばで、ニワトリは屋根の一番高い梁の上で眠りました。
真夜中になって、どろぼうの親分が「静かになったようだ。誰か様子を見てこい」と子分に言いました。一人のどろぼうが、そろーりそろーりと家の中へ入っていきました。台所へ行くと、暗闇の中で猫の目がギラリと光っています。どろぼうはそれを燃えている炭だと思って、火をつけようと近づきました。すると猫は「シャーッ!」と飛びかかり、顔をひっかきました。どろぼうはびっくりして逃げようとして、ドアのそばで寝ていた犬の足を踏んづけてしまいました。犬は「ガブッ!」と足にかみつきました。どろぼうは痛みで叫びながら外へ飛び出すと、今度はわらのそばで寝ていたロバに思いっきり後ろ足で蹴飛ばされました。「うわーっ!」
ほうほうのていで逃げるどろぼうの頭の上で、目を覚ましたニワトリが「コケコッコー!コケコッコー!」と元気に鳴きました。
どろぼうは親分のもとへ転がるように逃げ帰り、震えながら言いました。「あ、あの家には恐ろしい魔女がいて、顔をひっかかれました!ドアのところにはナイフを持った男がいて、足を刺されました!庭には黒い怪物がいて、こん棒で殴られました!おまけに、屋根の上では裁判官みたいなやつが『どろぼうをつかまえろー!』って叫んでました!」
それを聞いて、どろぼうたちはすっかり怖くなり、二度とあの家に近づこうとはしませんでした。
ブレーメンの音楽隊になるはずだった四匹は、その家がとても気に入りました。もうブレーメンへ行くのはやめて、その家で四匹仲良く、いつまでも楽しく暮らしましたとさ。
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