獅子と蚊
イソップ寓話
太陽がポカポカと暖かいある日、百獣の王ライオンさんが、大きな木の陰で気持ちよさそうにお昼寝をしていました。「グー、グー…」と大きないびきです。
そこへ、小さな小さな蚊が一匹、ブーン、ブーンとやってきました。蚊はライオンさんの大きな体の周りを飛び回りながら、こう言いました。
「ねえ、ライオンさん、起きてよ!僕と力比べをしようじゃないか。君がいくら大きくたって、僕にはかなわないと思うけどね!」
ライオンさんは片目を開けて、小さな蚊をじろり。
「なんだ、おまえか。わしは百獣の王だぞ。おまえのような小さな虫けらに、負けるわけがないだろう。あっちへ行け!」
と、大きな前足で追い払おうとしました。
でも、蚊はひらりとかわして、ライオンさんの鼻の頭にチクリ!
「いたっ!こしゃくな!」
ライオンさんは怒って鼻を前足で叩きましたが、蚊はもう耳元へ。ブーン、チクリ!
「うがー!やめろー!」
ライオンさんは頭を振ったり、自分の顔を引っ掻いたり。でも、蚊はすばしっこく飛び回り、ライオンさんの柔らかいところばかりを狙ってチクチク刺し続けます。
とうとうライオンさんは、息も絶え絶え。「もうだめだ…降参だ。君の勝ちだよ、小さな蚊さん…」と、地面にへなへなと座り込んでしまいました。
「やったー!百獣の王ライオンに勝ったぞー!」
蚊は得意満面、勝利の歌をブーンブーンと高らかに歌いながら、森の奥へと飛んでいきました。
「僕ってなんて強いんだろう!ライオンだって僕にはかなわなかったんだから!」
ところが、喜びのあまり周りをよく見ていなかった蚊は、木の枝の間に張られていたクモの巣に、うっかり引っかかってしまいました。
「あれ?あれれ?動けないぞ!」
蚊がもがけばもがくほど、クモの糸は体に絡みつきます。
そして、巣の主であるクモが、ゆっくりと近づいてきました。
蚊は、小さな声でつぶやきました。
「あぁ、あんなに大きなライオンには勝てたのに、こんな小さなクモに捕まっちゃうなんて…」
そうして、自慢の勝利の歌も、もう歌えなくなってしまいましたとさ。
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