猫と鼠
グリム童話
あるところに、一匹のねこと、一匹のねずみがいました。二匹はとっても仲良しで、「一緒に暮らそうよ!」と決めました。
「冬になったら食べるものがなくなるかもしれないから、今のうちに美味しいものを蓄えておこう」と、ねこが言いました。
「いいね!何がいいかな?」と、ねずみ。
二匹は相談して、とろーりとした美味しそうな油の壺をひとつ買いました。
「これをどこに隠そうか?」
「教会の隅っこがいいよ。誰も気づかないし、安全だから」とねこが提案し、二匹は油の壺を教会の隅にそっと隠しました。
しばらくして、ねこがねずみに言いました。
「ねずみくん、ちょっと出かけてくるよ。親戚の赤ちゃんが生まれて、僕が名付け親になったんだ。」
「へえ、それはおめでとう!どんな名前をつけたの?」
「うん、『ウワッペちゃん』っていうんだ。かわいい名前だろ?」
ねこはそう言うと、教会へ出かけていきました。もちろん、赤ちゃんの名付け親なんて嘘。ねこは隠しておいた油の壺の、一番上の美味しいところをペロリと舐めてしまったのです。
またしばらくすると、ねこが言いました。
「ねずみくん、また名付け親を頼まれちゃったんだ。行ってくるね。」
「また?すごいね!今度はどんな名前?」
「今度はね、『マンナカちゃん』だよ。」
ねこはまた教会へ行き、今度は壺の真ん中あたりまで油を舐めてしまいました。
そして、またまたしばらくすると、ねこがそわそわしながら言いました。
「ねずみくん、実は三度目なんだけど…また名付け親を頼まれちゃって。」
ねずみは少し不思議に思いましたが、「そうなんだ。今度はどんなお名前?」と聞きました。
「えーっとね、『スッカラカンちゃん』っていうんだ。ちょっと変わってるけど、いい名前だろ?」
ねこはそう言って教会へ行き、壺に残っていた油をぜーんぶ舐めて、壺を空っぽにしてしまいました。
冬がやってきて、食べ物が少なくなってきました。
ねずみが言いました。「ねこくん、教会に隠しておいた油の壺、そろそろ食べようか。」
「ああ、そうだね!」
二匹は一緒に教会へ行きました。でも、壺は空っぽ!一滴の油も残っていません。
ねずみはびっくり。「あれ?油がないよ!」
そのとき、ねずみはハッとしました。
「ウワッペ…マンナカ…スッカラカン…!ああ、そういうことだったのか!」
ねずみがねこを睨みつけると、ねこはにやりと笑いました。
「スッカラカン、って言っただろ?」
そして、お腹を空かせたねこは、怒っているねずみくんを、ぱくりと食べてしまいました。
「世の中って、こういうものさ」と、ねこは小さくつぶやいたのでした。
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