海のそばの、それはそれは小さな、古びたお家に、貧しい漁師さんとその奥さんが住んでいました。お家は、本当にボロボロでした。

ある日、漁師さんが海で釣りをしていると、ぴちぴちっと大きな魚がかかりました。びっくり！その魚が話しかけてきたのです。
「もしもし、漁師さん。私は本当は魔法で姿を変えられた王子なのです。どうか、逃がしてくれませんか？」
心優しい漁師さんは、「もちろんだとも。話せる魚なんて、初めて見たよ」と言って、魚を海に返してあげました。

家に帰って奥さんにその話をすると、奥さんはぷんぷん怒りました。
「あなた、なんてお人よしなの！お願い事をすればよかったのに！ほら、行って、せめてきれいな小さいお家をお願いしてきてちょうだい！」

漁師さんは困りましたが、奥さんが怖いので海へ行きました。海に向かって呼びかけます。
「おーい、お魚さーん！出てきておくれー！」
すると、魚がひょっこり顔を出しました。「どうしましたか？」
「あのう、うちの奥さんが、きれいな小さいお家が欲しいって…」
「わかりました。帰りなさい。もう叶っていますよ」
漁師さんが帰ると、ボロボロの家は素敵な小さいお家に変わっていました。奥さんは大喜びです。

でも、次の日になると、奥さんは言いました。
「この家じゃ狭いわ！もっと大きなお城がいい！行ってお願いしてきて！」
漁師さんは嫌でしたが、また海へ。「おーい、お魚さーん！」今度は海が少しにごっています。
魚は願いを叶えてくれました。帰ると、立派なお城が建っていました。

でも、奥さんは満足しません。
「お城だけじゃつまらない！私がこの国の王様になりたいの！」
漁師さんはため息をつきながら海へ。海はもっと荒れて、波が高くなっています。
「おーい、お魚さーん！」魚は出てきて、また願いを叶えました。奥さんは王様になりました。

「王様でもまだ足りないわ！皇帝よ！もっと偉い皇帝になりたい！」
漁師さんは怖くなってきましたが、海へ。海は暗く、嵐のようです。
「おーい、お魚さーん！」魚は願いを叶え、奥さんは皇帝になりました。

「皇帝でもまだ上があるわ！教皇よ！世界で一番えらい人になりたいの！」
漁師さんは震えながら海へ。海は大嵐で、恐ろしい音を立てています。
「おーい、お魚さーん！」魚は現れ、奥さんは教皇になりました。

でも、奥さんの欲張りは止まりません。
「教皇でもまだ満足できない！私は神様みたいになりたいの！太陽やお月様を、私の言う通りに動かしたい！」

これには漁師さんもびっくり仰天。「そんなこと、できるわけないよ！」と言いましたが、奥さんは聞きません。
漁師さんは、嵐で荒れ狂う海へ、恐る恐る行きました。空は真っ暗、雷が鳴り響いています。
「おーい！お魚さーん！助けてー！」

魚が顔を出しました。その目は悲しそうでした。「奥さんは何と？」
「あの…神様みたいに…太陽と月を動かしたいって…」

魚は静かに言いました。
「もう帰りなさい。奥さんは、元のボロボロの小屋にいますよ」

漁師さんが急いで帰ると、立派なお城も、王様の服も、何もかも消えていました。そこには、最初の、あのボロボロの小さな家があり、奥さんがしょんぼりと座っていました。そして、二人はずっと、その小さな家で暮らしましたとさ。

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