シメーリ山
グリム童話
山のふもとの小さな村に、ふたりの兄弟がくらしていました。お兄さんはお金持ちで、いつもおいしいものを食べていましたが、弟は貧乏で、毎日まきを拾って売って、やっと暮らしていました。
ある日、弟が森の奥へまきを拾いに行くと、大きな岩山のかげから、十二人のこわそうなおじさんたちが出てきました。「あれは、うわさの山賊たちだ!」弟はびっくりして、木のうしろにかくれて様子をうかがいました。
おじさんたちは岩山に向かって、大きな声で言いました。「シメリー山、シメリー山、おまえの戸をひらけ!」
するとどうでしょう。岩山に大きな扉があらわれて、おじさんたちは中へ入っていきました。しばらくすると、おじさんたちはキラキラ光る宝物をたくさん持って出てきて、また言いました。「シメリー山、シメリー山、おまえの戸をしめろ!」
扉はゆっくりと閉まり、おじさんたちはどこかへ行ってしまいました。
弟はドキドキしながら、おじさんたちのまねをして言ってみました。「シメリー山、シメリー山、おまえの戸をひらけ!」
すると、本当に扉が開きました。中には、金貨や宝石が山のように積んであります。弟は欲張らず、ポケットに少しだけ金貨を入れて、急いで家に帰りました。
おかげで、弟の暮らしはずいぶん楽になりました。
お兄さんは、弟が急にお金持ちになったので、どうしたのかと何度も聞きました。弟は正直に、シメリー山のことを話しました。
「よし、わしも行って、もっとたくさんの宝物を手に入れてやる!」お兄さんは大きな袋をいくつも持って、シメリー山へ出かけました。
お兄さんは呪文をとなえて山の中に入ると、目を輝かせ、袋という袋に宝物をパンパンになるまで詰め込みました。「これで大金持ちだ!」
満足して外へ出ようとしましたが、大変!喜びすぎて、出るための呪文をすっかり忘れてしまったのです。
「ええと、なんだっけ? セサミ山? キャベツ山? それとも…ダイコン山?」
いくら言っても扉は開きません。
そうこうしているうちに、山賊たちが戻ってきました。「こら、どろぼうめ!」
お兄さんは山賊たちに見つかって、宝物を全部取り上げられ、ほうほうの体で逃げ帰りました。
それからというもの、お兄さんは欲張ることをやめて、少しずつ働くことの大切さを知ったということです。
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