• 悪党の一味

    グリム童話
    あるところに、おんどりさんとめんどりさんがいました。二人はとっても仲良し。「ねえ、どこか遠くへ遊びに行かない?」とめんどりさんが言うと、おんどりさんは「いいねえ!くるみの殻でかっこいい車を作って、それで出かけよう!」と答えました。

    さっそく二人は、軽くて丈夫なくるみの殻で小さな車を作りました。おんどりさんが前に立って車を引き、めんどりさんはちょこんと車に乗りました。

    しばらく行くと、池のそばであひるさんが泳いでいました。「あら、おんどりさん、めんどりさん、どこへ行くの?」とあひるさん。「ちょっと遠くまでドライブさ。一緒にどうだい?」とおんどりさんが誘うと、「わあい、乗せて乗せて!」とあひるさんも車に乗り込みました。

    またしばらく行くと、道端で縫い針さんと待ち針さんが休んでいました。「こんにちは。どこかへお出かけですか?」と縫い針さん。「うん、楽しい旅の途中だよ。よかったら君たちも乗っていかないかい?」とあひるさんが言うと、「まあ、素敵!ぜひお願いします!」と縫い針さんと待ち針さんも、車の隅っこにちょこんと乗りました。

    夕方になり、みんなはお腹がペコペコ。ちょうど良いところに、一軒の宿屋を見つけました。「こんばんは!美味しいごはんと、泊まる部屋をお願いします!」とおんどりさんが言うと、宿屋の主人はにこにこして迎え入れてくれました。

    みんなはテーブルいっぱいの美味しいご馳走を、お腹がはちきれそうになるまで食べました。パンも、お肉も、甘いケーキも、ぜーんぶ平らげました。

    お腹がいっぱいになると、おんどりさんとめんどりさんはこっそり相談しました。「ねえ、お金を払わないで、朝早く逃げちゃおうか?」「うん、それがいい!」

    そこで、みんなで作戦をたてました。
    あひるさんは、台所の大きな水桶の中にそっと隠れました。
    縫い針さんは、客間のタオルの中に上手に潜り込みました。
    待ち針さんは、主人がいつも座る椅子のクッションに、そっと頭を出して隠れました。
    そして、おんどりさんとめんどりさんは、夜が明ける前にそーっと宿屋を抜け出し、門の上にとまりました。

    朝になりました。宿屋の主人は大きなあくびをしながら起きてきました。「ふああー、よく寝た。さて、顔でも洗うか。」主人が台所へ行って水桶に顔を近づけると、隠れていたあひるさんが「グワッ!」と叫んで、主人の顔に水をバッシャーン!とかけました。
    「うわっ、冷たい!」主人はびっくりして、タオルで顔を拭こうとしました。すると、タオルの中にいた縫い針さんが、主人の鼻をチクッ!
    「いったあ!」主人は思わず飛び上がりました。

    怒った主人は、暖炉のそばの椅子にどっかり座ろうとしました。そのとたん、「イテテテテ!」椅子のクッションから待ち針さんが飛び出して、主人のお尻をブスッ!
    「もう、なんなんだ今日は!」主人はカンカンになって外へ飛び出しました。

    すると、門の上からおんどりさんとめんどりさんが大きな声で叫びました。
    「コケコッコー!泥棒だ、泥棒だ!お客さんのものを盗む悪い宿屋だぞー!」
    これには宿屋の主人もびっくり仰天。「わ、わしは何も盗んでおらん!」と慌てふためきました。

    それからというもの、宿屋の主人は、変なお客さんたちが来ると、ちょっとだけ警戒するようになったそうです。そして、おんどりさんたちは、次の冒険へと出かけていきました。

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