• そば

    アンデルセン童話
    お日様がにっこり笑う、広い畑に、いろんな植物が暮らしていました。そこには、背の高いオート麦さん、ふっくらした大麦さん、そしてシャキッとしたライ麦さんもいました。みんな、風が吹くと優しく頭を揺らして、仲良くおしゃべりしていました。

    畑の隅っこには、ちょっと変わったそばくんがいました。そばくんは、自分の白い花が一番きれいだと思っていて、いつもツンとすましていました。「ぼくの花ほど美しいものはないね!」と、いつも自慢げです。

    近くには、年取った賢い柳の木が立っていました。柳の木は、たくさんの雨や風を見てきたので、いろんなことを知っています。

    ある日の午後、空が急に真っ黒な雲におおわれ、ゴロゴロゴロ…と遠くで雷の音が聞こえてきました。「嵐が来るぞ!」オート麦さんたちは、さっと頭を低くしました。大麦さんもライ麦さんも、地面にぺたんと頭をつけました。

    柳の木が、そばくんに声をかけました。「そばくん、危ないよ。君も頭を下げなさい。稲妻は、高いものが好きなんだ。」

    でも、そばくんはぷいっと横を向いて言いました。「へんだ!どうして僕が頭を下げなきゃいけないのさ?僕はまっすぐ立っている方がずっとかっこいいもん。それに、こんなにきれいな花に、雷様だって優しくしてくれるに決まってるよ!」

    柳の木はため息をつきました。「うーん、そうだといいんだけどねえ…」

    そのときです!ピカッ!バリバリバリッ!ものすごい光と一緒に、大きな雷が、まっすぐ立っていたそばくんの頭の上に落ちてしまいました。

    あっという間に、そばくんの自慢の白い花は真っ黒こげ。体もくしゃくしゃになってしまいました。しょんぼりと、力なくうなだれるしかありません。

    嵐が過ぎ去ると、太陽がまた顔を出しました。頭を下げていたオート麦さんや大麦さん、ライ麦さんたちは、みんな無事でした。畑は元のように静かになりましたが、そばくんだけは、真っ黒になったまま。もう、きれいな花を咲かせることはできませんでした。

    柳の木は、静かに言いました。「だから言ったのにね。時には、頭を下げることが、自分を守ることにもなるんだよ。」

    それからというもの、そばの実は黒くなりました。でも、その黒い実から作られるおそばは、たくさんの人に食べられて、おいしいねって言われるようになったんですよ。ちょっぴり残念だったけど、そばくんも新しい役割を見つけたのかもしれませんね。

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