鹿と水
イソップ寓話
森のはずれに、きれいな泉がありました。そこへ、一頭の鹿が水を飲みにやってきました。
水面に自分の姿が映っているのを見て、鹿はうっとり。
「わあ、僕の角はなんて立派なんだろう!枝みたいに広がって、本当に素敵だ!」
でも、次に自分の足が映ると、鹿はため息をつきました。
「それに比べて、この足はなんて細くて弱々しいんだろう。かっこ悪いなあ。」
そのときです!茂みの中から、ガオーッ!とライオンが飛び出してきました。
鹿はびっくり!「大変だ!」と、急いで逃げ出しました。
あの細くてかっこ悪いと思っていた足が、ぴょんぴょん、ぴょんぴょんと地面を蹴って、風のように速く走ります。ライオンはなかなか追いつけません。
「すごいぞ、僕の足!役立たずなんて言ってごめんよ!」
鹿は森の中へ逃げ込みました。「ここまで来れば大丈夫だろう。」
ところが、安心したのもつかの間。自慢していた立派な角が、木の枝にガシッと引っかかってしまったのです。
「うわあ、動けない!」鹿は焦りました。
ライオンのうなり声が、だんだん近づいてきます。
鹿は心の中で思いました。「ああ、僕がみっともないと思っていた足が、僕を助けてくれたのに。自慢の角のせいで、捕まってしまうなんて…。」
見た目が立派なものがいつも役に立つとは限らないし、見た目が良くないものが役に立たないとも限らないんですね。
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