• 万能博士

    グリム童話
    あるところに、カニさんという名前のお百姓さんがいました。毎日畑を耕していましたが、「もっと楽してお金持ちになりたいなあ」といつも考えていました。

    ある日、カニさんはひらめきました。「そうだ!お医者さんになろう!それも、『なんでも知ってる博士』だ!」
    カニさんは町へ行って、立派な服と、大きな字が書ける本を一つ買いました。そして家の前に「なんでも知ってる博士」と書いた看板を立てました。

    ちょうどその頃、近くの大きなお屋敷で、大金持ちの旦那様がお金を盗まれて困っていました。「なんでも知ってる博士がいるらしい。呼んでみよう!」旦那様はカニさんを屋敷に呼びました。

    カニさんはドキドキしながらお屋敷へ行きました。
    「博士、盗まれた私のお金を見つけてくだされ」と旦那様。
    カニさんは言いました。「もちろんですとも。ですが、まずはご馳走をいただかないと、頭が働きませんな。」

    食事が始まりました。カニさんは旦那様の隣に座りました。
    最初のご馳走が運ばれてきました。それを持ってきたのは、実は泥棒の一人目でした。
    カニさんは(ああ、これが最初のご馳走か)と思いながら、小声で「これが一人目だな」とつぶやきました。
    それを聞いた召使いは顔が真っ青!「博士にはお見通しだ!」

    次に、二番目のご馳走が運ばれてきました。持ってきたのは泥棒の二人目。
    カニさんは「これが二人目か」とまた小声で言いました。
    二番目の召使いもビックリ仰天!

    そして三番目のご馳走。持ってきたのは泥棒の三人目。
    カニさんが「これが三人目だな」と言うと、三人目の召使いは震え上がりました。

    四番目のご馳走は、大きなフタのついたお皿で運ばれてきました。持ってきたのは泥棒の四人目。
    旦那様はニヤリとして言いました。「博士、このお皿には何が入っているか、当ててごらんなさい。」
    実は、この召使いは旦那様に「博士を試してこい」と言われていたのです。
    カニさんは困りました。(うーん、もうだめだ。観念するしかないか…)と思い、運んできた召使いを見て、ため息まじりに言いました。「ああ、カニさん、とうとう捕まっちゃったねえ!」
    これは自分のことを言ったつもりだったのですが、お皿の中には大きなカニ料理が入っていたのです!
    フタを開けた旦那様と召使いは「すごい!博士は本当に何でもお見通しだ!」と叫びました。

    食事の後、震えが止まらない泥棒の召使いたちは、こっそりカニさんの部屋へ行きました。
    「博士、どうか私たちがお金を盗んだことは内緒にしてください!お金は暖炉の中の七面鳥のお腹に隠してあります!」
    カニさんはうなずきました。

    次の日、カニさんは旦那様に言いました。「旦那様、お金は暖炉の中にございます。」
    旦那様が暖炉を調べさせると、七面鳥が見つかり、そのお腹の中から盗まれたお金が全部出てきました!
    「素晴らしい!さすがはなんでも知ってる博士だ!」
    旦那様はカニさんにたくさんのご褒美をあげました。

    こうして、カニさんは本当に「なんでも知ってる博士」として有名になり、幸せに暮らしましたとさ。

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