• カリュドーンの猪狩り

    ギリシア神話
    むかしむかしよりも、もうちょっとだけ最近のことかもしれないし、ずっとずっと昔のことかもしれません。太陽がキラキラ輝く、カリュドーンという美しい国がありました。この国の王様はオイネウス王といって、とても優しい王様でした。

    ある秋のこと、カリュドーンの国では、たくさんの果物やお野菜がとれました。「わーい、大豊作だ!」オイネウス王は喜び、神様たちに感謝のお祭りを開きました。農業の神様、ありがとう!ぶどう酒の神様、ありがとう!と、次々にお供え物をしましたが…あらら、うっかり。狩りの女神アルテミスにだけ、お供えするのを忘れてしまったのです。

    これに気づいたアルテミスは、プンプン怒ってしまいました。「私のことだけ忘れるなんて、ひどいわ!」そして、罰として、それはそれは大きな、牙の鋭いイノシシをカリュドーンの国に送り込みました。このイノシシは、まるで小さな山みたいに大きくて、畑をめちゃくちゃに荒らし、人々を怖がらせました。

    困ったオイネウス王は、国中に知らせを出しました。「この恐ろしいイノシシを退治してくれた勇者には、素晴らしいご褒美をあげよう!」
    すると、ギリシャ中から腕自慢の勇者たちが集まってきました。力持ちのテセウス、船乗りのイアソン、そして王様の息子で、若くて勇敢なメレアグロスもいました。

    その中に、アタランテという、とっても強くて美しい女の狩人もいました。彼女は誰よりも足が速く、弓矢の腕もピカイチでした。でも、男の勇者たちの中には、「えー、女の子が狩りに参加するの?」と、ちょっと意地悪を言う人もいました。
    しかし、メレアグロスは言いました。「アタランテは素晴らしい狩人だ。彼女の力を疑うなんて、とんでもない!」メレアグロスは、アタランテの勇ましさに、こっそりドキドキしていたのです。

    さあ、いよいよイノシシ狩りの始まりです。森の奥深く、イノシシが「グオーッ!」と吠えながら飛び出してきました。あまりの迫力に、何人かの勇者は逃げ出してしまったり、怪我をしてしまったりしました。
    その時、アタランテが素早く矢を放ちました。ヒュン!矢はイノシシの背中にグサリ!イノシシは苦しそうに暴れます。
    「今だ!」メレアグロスが槍を構えて突進し、見事イノシシにとどめを刺しました。
    「やったー!」みんな大喜びです。

    メレアグロスは言いました。「このイノシシを最初に傷つけたのはアタランテだ。だから、このイノシシの立派な毛皮は、彼女のものだ!」
    ところが、メレアグロスのおじさんたち、つまりオイネウス王の弟たちが反対しました。「何を言っているんだ!女なんかに手柄をやるなんて、とんでもない!」そう言って、アタランテから毛皮を無理やり取ろうとしました。

    これを見て、メレアグロスはカッとなってしまいました。「アタランテへの侮辱は許さない!」そして、怒りにまかせておじさんたちと戦い、とうとう二人を倒してしまいました。

    この知らせを聞いたのは、メレアグロスのお母さん、アルタイアでした。彼女は、自分の弟たちが、自分の息子に殺されたと知って、悲しみと怒りでいっぱいになりました。
    アルタイアは、メレアグロスが生まれた時に、運命の女神たちが言った言葉を思い出しました。「この暖炉の薪が燃え尽きるとき、メレアグロスの命も尽きるでしょう。」アルタイアはその薪を大切にしまっていたのです。
    しかし、弟たちを殺された悲しみと怒りで、アルタイアはその薪を火の中に投げ入れてしまいました。

    遠いカリュドーンの国で、イノシシ退治の喜びの中にいたメレアグロスは、急に体の力がスーッと抜けて、倒れてしまいました。そして、薪が燃え尽きると同時に、メレアグロスも静かに息を引き取ったのです。

    アルタイアは、自分がしたことの恐ろしさと悲しみに耐えきれず、後を追うようにして亡くなってしまいました。
    楽しかったはずのイノシシ狩りは、こんな悲しいおしまいになってしまったのです。大切なことを忘れたり、怒りに心を支配されたりすると、時にはとても悲しいことが起こってしまうのですね。

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